第3話
急に視点が変わった。なんで目の前に仏壇があるんだ? スケキヨが白目剥いて……したらば……。
手が猫になってる! どういうことだ。俺は冗談で言ったんだぞ。ほんの冗談で。……まさか、まさか本当にスケキヨに乗り移っちゃったのか? なんだ、なんだ?
「にゃん」
声はこれしか出ないのか? 手、足、確かにスケキヨだ。スケキヨに乗り移ってるー!!!!!
「どうしたの、スケキヨ……」
見上げると三葉が俺を見下ろす。こんなに近くでお前を見るのは久しぶりだ。触ってくれ、俺を。なんで俺が乗り移ってから触るのをやめるんだ。ああ、そもそも三葉にはスケキヨはベタベタしなかったもんな。
「よーしもっとこしょぐっちゃうぞー」
美守?! やめろーっ。うわわわわわわっわー、こしょぐってぇ! なんでお前が触りまくるんだっ! にしてもこの感覚……久しぶりだ、うわわわっわ、笑いが止まらない。
「面白いー」
面白くない! うわぁぁぁーっ、美守。酷い。幼稚園児のチビ助がなんて酷いことを。笑いに笑って鬼畜だぞ。親の顔が見てみたい!!
「美守、何がおかしいのー猫ちゃん虐めちゃダメよ」
あ、親……母親の美帆子。
「だって面白いんだもん」
「何が面白いの? ほんと美守ったら」
もうやめろぉー許してくれー。こちょこちょの刑は酷すぎる、生き地獄、いや俺は死んでいるのにこんなことを! せめて天国に逝かせてくれ!
俺は美守に目を合わせた。彼は俺をジッと見た。そして笑う。確信犯だな、こいつは。
「はいはい、おしまいね。美守くん」
「えー」
三葉がスケキヨをひょいと抱きかかえた。俺の目線は彼女の近くに。そして柔らかい腕の中に、久しぶりに彼女の温もりを感じる。スケキヨに乗り移っているがその温もりは伝わってきた。彼女の甘い匂いも。涙が出てきそうだがどこから出るんだろうか。
三葉、三葉……俺も抱きしめてやりたい。腕は伸びない。これ以上伸びない。でもその温もり、匂い、そして……柔らかいおっぱい!!!! 今だからできる、全力ですりすり。実際の俺だったらビンタでも食らってるだろう。
あぁ、ずっとスケキヨのままだったらこれし放題なんだろうな。悪くないな、スケキヨライフ。
ふと美守を見ると顔が引き攣ってる。そんな顔をするな。お前の親もこうやってラブラブして生まれたんだぞ! って刺激強いか。
「今日はやけにわたしに懐っこいわ、スケキヨ。変なの」
ここまで抱きつかれた事はないぞ。三葉は甘え下手で人前では誓いのキスでさえも嫌がったんだ。でも2人きりの時は解放されたかのように……。ああ……って視線を感じる。
下から感じるその視線はやはり美守。やっぱりお前は俺がみえるのか? 三葉、そのまま、しばらくそのままにしてくれないか。
「じゃあスケキヨ、まだ私は美帆子からの大事なお話聞かなきゃなの」
えっ……? 三葉、まだそばにいたいのに。おろすな、離れるな。もっともっと抱いてくれ。
「僕はスケキヨのそばにいるね」
え、お前残るのか。三葉と美帆子はリビングに戻った。良かった、襖は閉められなかった。話は聞こえてくる。だがすぐそばにいる美守が気になる。そして撫出られる。もうくすぐったりするなよ。
「面白いね」
ん? 俺は見上げた。美守がニやっと笑った。なんだよ、その不敵な笑みは。
「おじさん」
やっぱお前にはみえているんじゃないか! なんでか教えろ!
ピンポーン
ん? 誰か来たのか。宅配? 美守に撫でられると気持ちが良い。……こんなに撫でられるとな。
三葉が玄関で何かを受け取り戻ってきたようだ。ぼんやりぼんやり。うとうと。
「三葉、大きな包みね」
なんの包みだ? 見えないぞ。ガサガサと何かを開く音がリビングから聞こえてくる。うとうと、視界がぼんやりしてくるぞ。
「和樹さんの遺影を近くの写真館で頼んでいたのよ。ほら」
遺影? 俺の遺影?
「いい写真が残ってないからちょっとアレだけどさ」
「いいじゃん、いい風に出来上がってるよ」
どういうふうにできてるんだ? 気になるけど本当にうとうと……横にいた美守も気づいたら寝ている。
まだ子どもだな、お前も。あくびが出る。
にゃおん
「あらあら、美守くん寝ちゃった。スケキヨも」
「そうね。この時間帯は眠いよね……そういえば」
「どうしたの、美帆子。あ、タオルケット持ってくるね」
まだ俺は寝てない……美帆子がやってきた。
「なんで美守は遺影や写真が無いのに仏壇におじさんがいるって言ったのかしら……」
あ……確かに……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます