第2話
俺は仏壇からその目の前のふすまよ、開け! と言っても開くわけないよな。気になって仕方がない。
誰か開けてくれないか? 俺の仏壇がある部屋はリビングを仕切った和室。いや、ここは「畳スペース」と言って来客用の寝室やいつか子供ができた時のために2LDKの我が家を3LDKにするためのものであって。
子供できる前どころか来客に使う前に俺が死んで仏壇が置かれて部屋を独立させてしまった。
目の前は景色が一望できるベランダにつながる。俺は内覧の時に山と街並みしかないがこの景色を見て休みの日はくつろぎたい……と思った。実際に夜景もよくて田舎なわけだから電車や街の明かり、星空……それを見ながら妻の三葉とお酒を飲みながら、肩を寄せ合い、キスもしたな。懐かしい、もう全てのことが懐かしいになってしまった。この一年、仏壇から移り変わる景色を見てきた。三葉が毎日カーテンを開けてくれていたおかげである。
だが今日は襖を閉められてしまった。何故だ?
それは仏壇の前にいるスケキヨのせいか? 来客がいる時、そしてケーキがあるからということか。三葉よ、あとでスケキヨにも何か美味しいものを与えてやってくれ。
現に俺の仏壇にチーズケーキが置かれている。生前好きだったものだ。でもたまにはチョコケーキとかショートケーキでもよかったのだが。どうせまた食べられないしまぁいいか。
スケキヨは座布団に丸まり、時折欠伸をする。お前も退屈だろ。それか久しぶりの来客だから大人しくしているのか。
たまにそこの襖を開けて入ってくるだろ。今はできないか? できないよな。
お前はいいな、呑気で。ストレスもない、好き勝手に家の外に出られる。もうご老体だから体力は減っているだろうが。
ほら、また欠伸した。お前とのここでの生活も退屈ではなかった。でも少し痩せたよな。気のせいか?
「ちょっと美守?」
ん? 隣の部屋から声が聞こえる。と同時に美守が襖を開けてくれた。おおお、開けてくれたのか。また俺の方を見てる。
かと思ったらスケキヨの前に駆け寄った。この子は猫が好きなのか。そうだよな、子供は動物が好きだ。平気なのはうちでも飼ってるからか? ん、また俺の方を見てる。
「美守、猫ちゃんは今くつろいでるのよ。邪魔しちゃダメよ」
「ぼく、猫ちゃん大好き」
「そうだったの?」
「うん」
美帆子もスケキヨを撫でる。いいなぁ、スケキヨはいろんな人から愛される。撫で撫でされたいものである。羨ましい。
ミャオ
ようやく声を出したスケキヨ。そこに三葉がやってきた。手には、にゃんにゃんゼリー。スケキヨの大好物だ。
「スケキヨも甘いものが食べたいわよね」
「これはなぁに」
「猫ちゃん用のゼリーよ。こうやって封を切って……」
「僕がやりたい」
好奇心旺盛な子供だな……怖がらないのか。それにスケキヨも人見知りせずに美守から出してもらったゼリーをチューチュー吸ってる。無心になってチューチュー。
ああ、俺も……食べたい。お腹が空いたわけじゃないけども。
「猫ちゃんにゼリーあげるの上手ね、美守くん」
「うん」
満面な笑みを浮かべる美守。あああああ、俺も甘えたいー。
だめだ、欲も満たされてないわけでもないのだが欲を欲しているのか?!
美守はまだ小さいが冷静に考えたら美女二人に囲まれて肯定感を満たされているのだ。ずるい、ズルすぎる!
美守が俺を見た。そして笑ってる。
「美守どうしたの?」
「ううん、なんでもなーい」
なんでもないだろ? もしかして俺が嫉妬狂ってるのを見て笑っているのか? 幼稚児に笑われたのか、俺は。
ううう! ああ、美守になりたい。俺は幽霊だから乗り移らないかな。なわけないよな。今日出会ったばかりの子供に乗り移るのもなんだしなぁ。
手頃なのは……スケキヨか。スケキヨに乗り移ることができたらなぁー。なわけないだろー! って1人ツッコミ。
スケキヨがまた欠伸をした。……スケキヨに俺は乗り移りたい。いいか?
ミャオっ
スケキヨが一瞬白目を剥いた。
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