一周忌
第1話
ここに客が来るのは久しぶりだ。そして俺の方をジーッと向かってみている男の子。話を聞くとまだ幼稚園児だと言うことだ。ちびでまんまるで、だがしっかりしている。初めて見たがこの子の父親に似たやつを知っている。気のせいだろうか。
「
そこにやって来たのは男の子、美守(キラキラネームか?)の母親である女性だ。いつになく美しい。
「仏壇……ここにおじさんがいるの?」
おじさんとは失礼だ。と言っても45歳は子供から見たらおじさんか?
わからんがいつまでも俺のことを見て何かを言いたそうだ。てか俺のことを見えているのだろうか。んなわけないか。でもすっごく俺の瞳を見つめている。
「さぁ座って、手を合わせて」
「う、うん」
2人は俺の前に座って手を合わせる。
「あら美守くん、幼稚園生なのにしっかり正座して手を合わせて……」
隣の部屋から声が聞こえた。俺の愛する人の声。
「もう一年なのね、大島さん亡くなったの」
「そうね、もうっていうか……」
そうだ、俺は死んだ。一年前死んだ。死んでこの仏壇にずっと居座っている。
「ごめん」
「いいのよ、もう一年……」
もう一年、そう言って俺の方を見る女性、それは妻の
本当に美しい。その髪を、その頬をこの手で触りたい。黒々とした瞳で俺を見つめて欲しいのに何故見てくれないんだ、三葉。
美守は俺の目をじっと見ているのに、何故なんだ、美帆子も見てくれない。どういうことなんだ。この子とは会うのは初めてだ。
「美帆子、美守くんこっちでケーキ食べようか」
三葉はニコッと笑ってその場の雰囲気を少し明るくさせた。
「うん、ほら美守もいつまでも仏壇見ていないで」
そう美帆子が美守に声をかけると彼は
「わーい! ケーキ。ママ、僕は選んだケーキがいい!」
「こら、まずは三葉さんに選んでもらうの」
「やーだーっ! 僕はチョコケーキがいい」
さっきまで俺をじっと見てた美守だが、好きなケーキを独占したい欲を見ると本当に子供なんだなぁ、と思ってしまう。
美帆子は困っている。親は大変だ。まだ家はの中、友人宅はいいかもしれないが他所の家や公共の場で子供が暴れたら苦労するだろうな。
俺と三葉の間には子供はいなかった。結婚して一年もしないうちに死んでしまったわけだし、お互い年も年だし、まぁいいかと思ってはいたがやはり周りはこの歳になると既婚者には子供がいた。
いくら俺が高校教師だからといっても思春期の子供たちのことでさえ手こずってて、赤ちゃんともなったら大変だったかもしれない。
三葉も俺と二人きりでもいい、とか言い出したけど半年くらいしてからやはり寂しそうなのか、子供が欲しいのではというのを感じ取れた。
だが不器用な俺は聞くこともできず、近所のとある夫婦が面倒見きれなくなった老猫の一匹を持ってきたところ三葉は子供のようにその猫をとても可愛がった。(老猫なので子供というか老人の世話のような気もするが)
ああ、やはり彼女は子供が欲しいんだ……よし、不妊治療とやらを受けようとした矢先であった。
ああ、事故のことを思い出すとなんか頭が痛い。死んでも頭が痛くなるのか? 頭が痛いというか記憶がほぼなくて気づいたら病院のベッドの上だったわけだし。
そうこうしてるうちに俺の仏壇の横にある居間に3人は移動してしまった。声は聞こえるが襖を閉められて姿が見えない。
美守の喜ぶ声がするからきっと自分の選んだケーキを食べれるのであろう。
いいな、ケーキ食べたいよ俺も。三葉が毎日仏壇にお供物をしてくれているし、死んだ時はお供物として酒やお菓子がたくさんあった。気持ちは嬉しいが食べることはできない。お腹は空かないが食べたい。
にゃお
あ、この鳴き声は。散歩から帰ってきたか、我が家の猫……スケキヨ。(全体は白いのだが目の周りと口鼻は黒いから横溝正史の小説が原作となっている映画の容姿に似てるキャラと同じ名前にした)
スケキヨは仏壇の前にある座布団に座った。そこが定位置だもんな。少し痩せたな、また。
襖一枚向こうではケーキを食べながら談笑している。羨ましい。
何を話してるのだろうか、気になってしまう。盗み聞きではないが気になる。普段は三葉と二人きり、毎日聴こえるテレビの音と三葉の独り言とスケキヨの鳴き声だけの日々、他所から来る人の会話を聞きたいのだ。
仏壇から先に出ることはできないようだ。幽霊ってそういうものなのか?自由に移動できないのか?
耳を澄まして話を聞く。
「あのさ、今日はね……報告とお願いがあってさ」
美帆子がいきなり話を切り出した。なんだ、報告とお願い? 気になる、気になってしょうがない!
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