第4話

 気づいたらまた視点がいつもと同じところであった。仏壇に戻ったのか。窓の外、空の色が赤くなっている。スケキヨは寝ている。横に寝ていたはずの美守がいない。声も気配も感じないから美帆子が寝ている美守と帰ったのであろう。


 結局なんで美帆子がきたのかわからずじまいだったが、わかったことはスケキヨに乗りうつれたこと、美守が俺のことをみえた事、そして寝て覚めたら元に戻るようだ。


 でもよく考えたら俺はまだ何で仏壇にいるのだろうか。遺骨が仏壇にあるからか。いやそれでも成仏されているはずだが……天国、それまた地獄、どちらにも逝ってない。

 何でだろうか。この一年、何とも思ってもいなかったがいきなり気にしてしまう。


 そして、あの子……美守が俺のことがなんでみえたのだろうか。

 スケキヨをこしょぐっていた時、40過ぎたおっさんな俺のことをこしょぐっていたってことか? どんな絵面なのだろうか、想像すると誰にも見られたくない。


 また静かな空間。基本三葉だけだとすごく静かなんだ。


 俺が生きていた頃は俺がよく喋っていた。三葉はうんうんと話を聞いてくれていた。話をよく聞いてくれる人だ。声を荒げることもない。猫をかぶってるかと思ったがそうでもなかった。まぁベッドの上での彼女は……ああ、なぜそれを思い出す、こんなときに。


 常に部屋の中では俺の好きなラジオが流れてて……二人と一匹だけど賑やかな家だった。


 ってここ一年、ここにいたのに今こんな感情が一気に湧き出てきた。変なの。


 あ、三葉がやってきた。部屋は暗くなっている。そこに灯りがつく。彼女は毎朝晩ご飯とお酒をお供えしてくれる。ありがとう。


「和樹さん、食べてくださいね」

 と声をかけてくれる。食べたり飲むこともできないが。


「月が綺麗ね、和樹さん」

 ああ、目の前にまんまる満月。いつの間にか。月がここだと綺麗に見えるんだよ。


 シャッ


 え、何で閉める? するとスケキヨがカーテンを閉めた後で驚いて起きた。

「あ、ごめんスケキヨ。驚いたかな」

 スケキヨは三葉にすりすり体をなすりつけている。だがやはりすぐ離れる。三葉もさっきのベッタリはなんだったかと首を傾げる。

 スケキヨはすぐスタスタと隣のリビングに行ってしまった。餌の時間だ、餌の皿のところへ行ったのだろう。


 また和室は俺と三葉だけになった。彼女は俺を見てる。だが目線は合わない。

「……もうあなたが死んでから一年ね、和樹さん」

 あ、もう一年。そうか、ちょうど一年前、だからか? 一周忌だからなんか乗り移れたり、変な感情が込み上げたりしたのか? んー、よくわからんが。


「寂しいよ、和樹さん」

 ……三葉。


「わたしも美帆子みたいに子供欲しかったよ」

 ごめんな。本当ごめん。よしよししてやりたい。こういう時こそスケキヨに乗り移ろう……スケキヨー戻ってこい、戻ってこいよ。


 ん?! 三葉が俺のお供えの日本酒のグラスをくびっと飲んだ。仁王立ちで潔い。こんな姿見たことない。


「妊活のためにお酒も我慢してたし、和樹さん死んでから一年……お酒吞む気にもならなかったけど美味しいわ」

 ……そうだったのか。て、俺は普通にお酒を飲んでいた。うわ。


「美味しいわ……」

 三葉……泣くな、泣かないでくれ。早く、スケキヨ! スケキヨはどこにいる?

 ああ、三葉を抱きしめてやりたい。今すぐに。


 ……そういえばスケキヨに乗り移ることができたのだが、三葉にはできるのか? いや、今は彼女に寄り添ってやりたいのだが。

 でも……ものは試しだ。三葉に乗り移……いや、なんか倫理的にどうなんだ? もうスケキヨに乗り移ってから言うのもあれだが。


「和樹さぁん!!!!」

 あああ、三葉! 泣くなぁ! もうお前を泣かせない!! 俺は念を込めて叫んだ。





 三葉に乗り移る!!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る