第4話

―翌日。

その日の始まりは、朝の報道番組から始まった。

「施設長!ここの近所で、事故が合ったらしいですよ!」

「え!?」

佐藤の言葉に施設長は必要以上の反応をしてしまったため、佐藤は違和感を感じ取ったような表情を見せた。

「どうしたんですか?施設長?そんなに驚いて…」

「あ…いや、近所って聞いて、怖いなと思いまして。…小学生組のみんなに、注意を促さないとねー…」

施設長はとっさに誤魔化しの言葉を言った。

「…で、どんな事故なの?」

「死亡事故みたいです。二人亡くなったみたいなんですが…」

佐藤は途中で、口を噤んだ。

「…どうしました?佐藤さん」

「すみません。…ここだけの話なんですが、どうやらアリスちゃんの元両親らしいんですよ…昨日の出来事みたいです」

「………!?」

施設長は驚愕した。それを見た佐藤は「そりゃ、びっくりしますよね…」と言い、仕事に戻った。

佐藤が去ったのを見計らい、施設長は施設長室に戻った。

『ガタン!』

「…まさか…!!」

息が荒い。過呼吸気味な呼吸になっている。しかし、今はそれどころじゃない。

「…アリスちゃんが…殺した…?」

…いや、それはまだ早すぎる結論か。

彼女はただ予知しただけかも知れない。更に言えば、嘘が真になっただけかも知れない。

「…落ち着け、私…」

犯人がアリスちゃんと決め付けるのは早い。

しかし…。

『ガチャ…』

「…!?」

開かれたドアの先には、有栖がいた。

「施設長…?お分かりいただけましたか?」

有栖は部屋へ入る、小さい体のはずなのに、施設長にとっては猛獣が入ってくる以上の恐怖が襲った。

「…にわかに…信じられない。アリ…貴女は、殺し屋なの…?」

言葉が震える。目の前にいる少女は確かに少女のはずなのに。

「完全に否定は出来ませんが、厳密に言えば違います。…がっかりです、貴女なら直ぐに理解出来ると思っていたんですが」

有栖は施設長の目の前に立つ。

「…何故、私なの…?」

「…はい?」

施設長の問いに有栖は首を傾げる。

「貴女の指す『依頼』は、殺しを代行する事でしょ?…何故…私が依頼者なの?」

「…愚問ですね。私は貴女の考えを完全に否定はしません。ですが、的を射得て無い。…まだ頃合いでは無いのですね。失礼しました…」

そう言って、有栖は出ていった。

施設長は息をつき、椅子に座った。

…落ち着け。アリスちゃんの発言により、少なくとも『殺し』も行うことは覗えた。アリスちゃんの両親の死亡事故も少なからず彼女の関与があるのであろう。

「何で…私…?」

…全てを理解した時、私はどうなるんだろうか?


―有栖の部屋。

「アリス…、これは見当違いじゃないのか?」

「それは有り得ません。貴方は分からないかも知れません。ですが、私はあのような人を沢山見てきたので…」


「……」

…数日間。私はずっと悩み苦しんだ。アリスとの接触も、出来る限り避けた。

「また…」

施設の正門に、ダンボールの箱に入れられたまだ1歳にもならないであろう赤子が捨てられていた。

…こういう赤子は、里親が見つかりやすいからいいものの…、親の神経はどうしているんだと思う。

赤子の体を抱きかかえて、泣きやむようにあやした。

赤子はすんなりと泣きやんで、施設長に笑顔を見せた。

その笑顔を見た瞬間、脳内に過去の映像がフラッシュバックした。

「…私は」

施設長は声を震わせた。

「私は、子供が産めないのに…世の中、理不尽だ…子供を産める健康体な奴程、適当な男を見繕って…快感を得るためだけの性行為をして…望まない子供を作る」

口調が整い始めた時、口元が引きつり、苦笑が漏れた。

「これはどういう皮肉だろうね…その望まない子供が子供の産めない私の施設に来る…。悪と認識している人間のおかげで私は子育てを体感させてもらってる…」

赤子がまた泣き出したところで正気に戻った。自分の顔がぐしゃぐしゃに歪んでいるのが見なくてもわかった。

施設長は、泣いている赤子をあやしながら、施設内へと戻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る