第3話

―翌日。

施設のグラウンドで子供たちはドッジボールをしていた。施設長も子供たちと一緒になって遊んでいた。

…しかし、施設長は有栖の姿が何処にも無いことに気づいた。

施設長は有栖を探しに、グラウンドを離れた。

とりあえず、有栖の部屋に入ってみた。…有栖は居なかった。

殺風景な部屋。今度、彼女に大きなぬいぐるみを買おうと施設長は思った。

そして、有栖の部屋を出ようとした時。ドアに張り紙があることに気づいた。


『裏庭に貴女の望むヒントがあります』


『貴女の望むヒント』という物の詳細は分からなかった。が、有栖はきっとそこにいるのだろう。そう確信して、施設長は部屋を後にした。

…彼女が何故私を誘導しているのかも、尋ねたいと思った。

間もなくして裏庭に着いた。施設長の視界に木の前に立つ有栖の後ろ姿を確認することが出来た。

しかし、彼女を呼ぼうとしても声が出なかった。

施設長は戸惑いを見せて、必死に喉を押さえた。

有栖はそれを察したかのように、手を目の前にある木に向けた。

「導け…」

有栖の声と共に、目の前の木はまるで最初から無かったかのようにその場から消滅していた。

「…貴女が依頼者でしたか…施設長」

有栖は振り向き、戸惑いを隠せない施設長を見て言った。

「…おそらく、貴女はまだ依頼内容もわかって居ないでしょう…。私の付き添いはせっかちですから、仕事依頼を誰よりも早く入手してしまいます…困ったものです…」

「……………!!」

施設長は、有栖の発言を延々と傍聴するしか出来ない。

「何も発言しなくて大丈夫です。すべて後々分かります。ここにあった木が消えた理由も…貴女ならいずれ分かるでしょう。…一つだけヒントを言うとすると、『今日、誰かが事故死します』」

有栖はその場を去った。それと同時に、施設長の声が戻った。

「あり…ッ!!…アリスちゃん…?」

『不可解』今の状況ほど、この言葉が似合う状況は無いだろう。

彼女は一体何者なのか。私は何故彼女の『依頼者』となるのか。ここにあった木は何故消えたのか。すべてにおいて、理解の範疇に無い。

「…至極、気持ち悪い気分だ…」

率直な反応を口に漏らす。喉を押さえる。

「…何があったの?あの子が居た間、喋れなかった…」

自問自答しても、やはり理解の範疇に無い。

…しかし、何だろう。何かスッキリした。

彼女は、『普通の人間』でないことが分かった。ということは、今まで私が感じていた違和感は全て説明がつく。

「だけど…。これは何だろうか…」

施設長の目の前に"あった"木の方向に視線を向ける。

『今日、誰かが事故死します』…彼女が言っていた言葉。

しかしながら、事故死なんて昨今の世界では、幾多のケースがあるため、どの事を指しているか理解するのは難しいだろう。

『貴女ならいずれ分かるでしょう』

「…いずれ…分かる…」

謎は深まるが、立ち止まっていても仕方ない。

施設長は裏庭を離れた。


―有栖の部屋。

「…ったく、アリス。今回は口が軽すぎやしないか?」

空虚な空間に低い声が響く。

「いえ…。貴方が仕事を早く持ってきすぎるのが悪いんですよ…」

有栖は、ボヤいた。

「大丈夫ですよ。彼女は誰にも口外しない。全ては私の言った通りになります。…初めて会った時から気づいていたので」

有栖は窓の方を向く。

「彼女の闇に…」

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