第2話

―翌日。

施設長と従業員は各部屋いる子供たちを起こし、食堂での朝食を摂るよう催促した。

「アリスちゃん。おはよう」

有栖の部屋には、施設長が来た。

「おはようございます…」

「偉いねー。しっかり挨拶ができてー」

施設長は、有栖の頭を優しく撫でた。

「アリスちゃん。今日は施設のみんなと初めての顔合わせだから、ちょっと紹介の時間を取らせて貰うけどいい?」

施設長は尋ねる。

「一向に構いません」

有栖は淡々と答える。

「そう?じゃあ、一緒に食堂に行きましょう」

そう言われて、有栖は施設長に食堂へ連れられた。


―食堂。

『ガヤガヤ…』

有栖が食堂に来た時には、食堂には沢山の子供が食卓に座っていた。

「はーい!みんなー!今日は、新しいお友達の紹介をしてから、朝ごはんを食べましょうねー」

『はーい』

子供達の視線が有栖に向けられる。

「アリスちゃん。自己紹介、自分で出来る?」

「出来ます…」

そう言うと、有栖は一歩前に出た。

「朝音 有栖(あさね ありす)。6歳です。短い間かと思いますが、よろしくお願いします…」

『パチパチパチ』

施設長と子供達は有栖に盛大な拍手を送った。

…しかし施設長は、すぐに違和感を感じた。

「え…?『短い間』…?」

施設長は直ぐ様、有栖の方を見た。

「アリスちゃ…!!」

…その時の有栖の横顔に見える瞳は今まで以上に冷たかった。

施設長は、有栖を呼び止めるのを止めた。

―彼女は、何かがおかしい。

施設長は、そう感づかずにはいられなかった。

…食事が終わり、子供たちは部屋に戻った。

「…ねえ、佐藤さん?」

「はい?」

佐藤と呼ばれた従業員は施設長に呼び止められた。

「アリスちゃんの自己紹介聞いてたわよね?」

「え?はい。歳の割に礼儀正しい自己紹介でしたね」

施設長は少し驚いた。佐藤は、あの自己紹介に違和感を感じなかったのか?

「…あの子。『短い間』って言ってたんだけど…、どういうことなのかしらね?」

施設長は、違和感を確信付けるために、強調して言った。

「…え?アリスちゃん。そんな事言ってなかったですよ?」

「え…?」

施設長は、佐藤の言っていることが理解出来なかった。

「いやいや!アリスちゃん言いましたよ!?…ちょっと、確認の為だけど…復唱してくれる…?アリスちゃんの自己紹介」

「え?…『朝音 有栖。6歳です。新しい環境で戸惑うことがあると思いますが、よろしくお願いします』ですよね?」

「………?」

言葉が出なかった。佐藤の情報と自分の情報に、ズレが生じているというのか。

いや、私達は同じ場所にいたはず。

「…うっ…!!」

「大丈夫ですか!!」

施設長は吐き気に襲われた。気味の悪いこの状況に。

「…大丈夫。ちょっと…疲れているみたい…」

「そうですか…?」


―有栖の部屋。

「貴女でしたか…」

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