自分の性癖に気づいた日

ネルシア

自分の性癖に気づいた日

「私、あなたのことが分からない・・・。

 いつでも心のどこかで満足していない感じがもう耐えられない。」


「ちょっと待ってよ!!」


そんな私の声は去っていく背中には届かない。


何回目だ、これで。

今度こそと思えど、上手くいかない。


いつも言われる。


「あなたのことが分からない」


私だって自分で感じている。

行為の最中だってどこかで満足していない自分がいる。


「私恋愛向いてないのかなぁ・・・いつものとこ行こ。」


幸い仕事には恵まれ、お金には困っていない。

いい部屋に住んでもいるし、行きつけのバーだってある。

でも、上手くいく恋人ができたことがない。


「慰めてもらおうっと」


重い足取りでいつものお店へ向かう。

別に店内が特別綺麗とか、珍しいお酒をそろえているとかそういうのはない。

マスターの人がいいのだ。

何かあった時は社会人新人の頃から駆け込んでいた。


お店のドアを開けると、マスターの心地よい声が響く。


「いらっしゃい。振られでもしたの?」


男性とも女性とも取れるルックスに聞き分けが付かない声。

性別どっちなんだろうといつも気になる。


「そぉ~なの~、慰めて?」


「どうせまた、あなたのことが分からないって言われたんでしょ。」


その発言と同時に、いつものお酒を出してくれる。


「このエスパーめ。」


差し出されたグラスを一気に飲み干す。


「はぁぁぁぁぁ、なんでかなぁぁぁぁぁ。」


「そんなこと言ってたって合う人は見つからないよ」


空になったグラスに新しく注いでくる。

この人は私のこと分かってんだよぁ・・・。


ぼーっとグラスに入ったお酒を眺めていると、別のお客さんが入ってくる。


「いらっしゃい。」


なんとなくその人を見てしまう。

上下ともにきちんとグレーのスーツを着こなしている。

この場に似合わねぇなぁと酔いながらに思う。


「ファジーネーブルください。」


かっこいい系の見た目に反して可愛いもん飲むなー。


「かしこまりました。」


ただその人が座るのが目から離せない。

座った後も、机の上で突っ伏している私とは違って姿勢がいい。

飲むときでさえ美しい。

ただ、飲み方が豪快。

一気に全部飲み干してしまった。


弱いお酒なんだからゆっくり飲めばいいのに・・・。


「お会計お願いします。」


「はーい。」


マスターも別に引き止めずにお会計を済ます。


その人が出て行った後に、マスターが教えてくれた。


「最近来てくれてるの。いつもファジーネーブルを一杯一気飲み。」


「へぇ~。」


「かっこいい系の美人だよね。狙うなよ?」


飲んでいたお酒が変なところに入り、むせる。


「こっっのやろう!!!!!」


狙おうと思ってたのに!!!!!


「ほら、そろそろ帰ったら?」


時計を見て、そろそろ帰らないといけない時間になっていた。


「あーい。ごちそうさん。いつも通りお釣りはいらないからね。」


「毎回悪いね。」


「まぁ私のダル絡みに付き合ってくれたお礼もだから。」


手を振りながら店を出る。


「あ~、今日も飲んだなぁ~。」


んーと細い路地で伸びをする。

空を見上げると、少ない星が輝きを放っている。


「ねぇ。」


急に声を掛けられ、前を見ると、さっき遭遇したグレースーツの女性が立っていた。


「は、はい。」


ずんずんとこちらに向かって歩いてくる。

その気迫に押され、思わず後ずさりする。

ついに壁際まで追い詰められた。


「私が何かしました?」


「うるさい。」


それだけ言うと、私のシャツの襟をぐいと引き寄せられる。

突然の出来事に拒絶することも、逃げることもできなかった。

無様に唇を奪われる。

舌も入れられる。


「ちょ、こんな街中で。」


「うるさい。」


シャツを肩が見えるまで無理やり脱がされる。


「私に抵抗した罰。」


ガリと鎖骨を噛まれる。


「いっっ!!」


私の苦悶を無視し、さらに噛みついてくる。


「痛いって・・・。」


小声でしか抵抗できない。

なぜか体を引き離せない。


やっとこのことでその人が私から離れる。

体の力が抜け座り込んでしまう。


「またね。」


私を見下し、その場を去っていく。

その人の乱れた顔と髪型が強烈に脳裏に残る。


しばらく動けなかったが、ぼーっとした頭で家に帰る。

お風呂を焚いて入っても。

無理やりにキスされた記憶と噛まれた痕を思い出して、見るだけで疼く。


「めっちゃドキドキする。」


それから毎日バーに行ってはあの人を探す日々が始まった。


「毎日来てくれるのはありがたいけどさ、あの人月1でしか来ないよ。」


「なんでわかんの?」


「そりゃ顔に出てる。恋してるって。今までにない顔してるし。」


「やっぱりエスパーだこいつ・・・。」


そんな話で時間を潰していると、あの人が入ってきた。


心臓が高鳴る。


私の隣に座り、私の目をまっすぐと見つめてくる。


「あなた私の奴隷になりなさい。」


「ひゃい。」


どうやら私はマゾだったようだ。


「マスター、こいつ連れて帰るから。」


「はいはい、末永くお幸せにね。」


「ほら、帰るよ。」


チェーン付きの首輪。

ぐいと引っ張られる感覚がたまらない。


「帰ったらご褒美あげるからね。」


「うん・・・。」


性癖が合致するって怖いね。

そう思いました、まる。


FIN.



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