第46話 決着
(え……?)
来るはずの衝撃がなく、呆気に取られる。
そして、目の前では雪梅が仲考の胸に深々と刃を突き刺していた。
「な、ん……だと……?」
「あんたのせいだあんたのせいだあんたのせいだあんたのせいだ……っ!」
「あぐっ、が、やめ……っぐ、あ、……」
何かに取り憑かれたかのように仲考を滅多刺しにする雪梅。我に返って彼女を捕らえるも、仲考は既に事切れていた。
「花琳さま!」
「陛下!」
「良蘭! 明龍! 無事だったのね!!」
声をかけられ振り返ると、そこには良蘭と明龍がいた。
彼らが無事だったことにホッとしながら、やってきた彼らを抱きしめる。峰葵はその間に項垂れている雪梅の腕を縛り上げていた。
「まだこちらにいらっしゃったんですね!」
「えぇ、仲考を見つけて戦闘になって捕らえたんだけど……結局こんなことになってしまったわ」
事切れた仲考に視線を落とす。彼の姿はもう見る影もなかった。
「そうでしたか。ですが、過ぎたことは仕方ありません。とにかく、花琳さまは今は市井の方へ!」
「城内の避難も完了しました! ですから陛下はお早く指揮を!」
「わかったわ。峰葵!」
「あぁ。明龍、雪梅をこのまま拘束しておいてくれ。死なせるんじゃないぞ、彼女には今回の顛末を証言してもらうからな」
「承知しました、お気をつけて!」
「行くぞ、花琳」
峰葵と共に花琳は市井に向かって走り出す。
ところどころまだ燃えてはいるものの、ほとんどの家屋が鎮火できているようだった。
それぞれ民衆たちが協力し合い消火したらしい。
「みんなよくやった! ご苦労であった!」
「へ、陛下!?」
「うそ。陛下が市井にお下りに……!?」
突然の秋王の登場にその場にいた民衆たちが動揺する。
しかも既にズタボロで威厳も何もない状態の秋王の姿に、民衆たちがギョッとするのも無理はなかった。
だが、花琳はそんなことを気にせず彼らを労う。
「怪我はないか? みんな無事か!? 既に聞いているかもしれないが、他国が攻めて来る可能性がある。だからこのままここにいては危険だ。すぐに避難してくれ。我が侵入を防ぐから、お前たちは身を守れ、いいな?」
花琳が民衆たちに声をかけるとみんな呆気に取られたあと我に返り、それぞれ動き出した。
「は、はい!」
「わかりました!」
「逃げるぞ!」
「避難所へ急げ!」
「陛下、お気遣いどうもありがとうございます!」
走り去る人々を見送ったあと、花琳は門へと急ぐ。
「珍しいな、声かけするなんて」
「労いの言葉は減るもんじゃないんだから言って喜ばれるならいくらでも言うわよ」
「それは確かにな。……前よりもいい王だと思うぞ」
「そうね。兄さまと同じくらいよき王ではなく兄さまを超える王にならねばならないかもね。……そのためにもこの国を陥させたりはしない!」
攻められているという正門前では既に戦闘が始まっていた。思いのほか速い到着に、騎馬隊が先陣をきってやってきたのだと悟る。
「どうなっている!?」
「現在春匂国が先行して来ているとのこと。続いての冬宵国は既に待機していた別働隊が足止めをしてるとのことです」
「承知した。いいか、騎馬隊は馬を狙え。上は落としてから怯んだ隙を狙え」
「御意!」
伝令兵が行ったあと、花琳は大きく腕を捲った。そして、槍を手に持つと
「花琳、何をするつもりだ?」
「戦意向上。兵の士気を上げる」
「どうやって?」
「いいから見ててちょうだい」
花琳がそう言い、櫓に登ると大きく息を吸い込んだ。
「皆の者ー! よく聞け!! 我は秋王である! こたびの戦で、我よりも戦果を挙げた者全てに褒美をやる! 腕に覚えがある者は、我よりも戦果を挙げてみせてみよ!」
「うぉおおおおおおおお!!!」
野太い雄叫びと共に一気に士気が高める。兵たちは皆、先程よりも一打一打が強くなり、敵を次々と撃破していく。
「これでよし。では、行くわよ」
「はっ? どこに」
「何って私も前線に出るわよ。言ったでしょう? 我よりも戦果を挙げよってね。私もやるときはやるところを見せないと」
「おい、待て……っ! あー、もう……っ!!」
櫓から降りると、花琳は見事な槍さばきで次々と敵兵を駆逐していく。それに呼応するように峰葵も敵を斬り伏せていき、さらに波及するように兵たちも春匂国の兵たちを圧倒していった。
「ここは我々の地! 奪われるわけにはいかぬ!! 我らは強い! いっきに畳みかけるぞ!!」
「うぉおおおおおお!!!」
再び士気を高めるよう声かけをして、さらに彼らを鼓舞する。地鳴りのような雄叫びに敵兵がどんどん怯んでいくと、あっという間に春匂国の兵たちを制圧した。
「はぁ……はぁ……はぁ……次は、冬宵国か……」
門の先に統率された騎馬隊が見える。
(別働隊は一掃されたか)
かなりの数の兵たちが見えていることに気後れしそうになるが、まだやれると自分自身を鼓舞する。
そして、槍を握り直すと何やら遠くから「花琳〜!」と聞き慣れた声で自分の名が呼ばれているが聞こえて、花琳はよくよく目を凝らした。
「秀英!?」
そこには立派に着飾った夏風国の王子である秀英が、大手を振りながらこちらに向かって駆けてきている姿があった。
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