第25話 校外学習 班決め編

 先日、俺の好きな人である柊木瑞希ひいらぎみずきと、俺の幼馴染である桃井美羽ももいみはねによる料理対決が家で行われた。

 結果的に言えば、引き分けという形で終わったが、なぜか二人の間に変な友情が芽生えたような気がする。


 そして今日、高校二年生で行われる行事の中で二番目に楽しみな行事、校外学習の班決めが行われるのだ。

 校外学習での行き先はもう既に決まっていて、有名な某遊園地となっている。



 ただし、問題が二つほどあった。


 まず一つ目は、校外学習の班において、男女二人ずつの班を作ることがマストなのだが、俺には男子の友達がクラス内にいないこと。


 次に二つ目は、美羽は恐らく俺と同じ班になりたいと言って、一緒の班になるだろうが、柊木さんをどのように俺の班に入れるのか。


 この二つの問題を解決する糸口を、俺は未だに見つけられていない。

 でも、二つ目の問題を解決出来れば、恐らく一つ目の問題は自動的に解決すると思うが、それで寄ってきた男子たちは全員却下だ。



「一体どうすればいいんだ……」


「お、はる〜? どしたの〜?」


 以上に挙げた二つの問題のせいで、頭を抱えていた俺に話しかけてきたのは、美羽だ。

 美羽は俺の両肩に手を置いて、肩まで伸びた綺麗なダークブラウンの髪を揺らしながら、顔を覗き込んできた。


「いや……校外学習の班決めのことでちょっとな」


「あ! そういえば次の時間、班決めだったね〜。一緒の班になろ〜」


「お、おう」


 やはり案の定、美羽は同じ班になった。

 まだ班決めの時間じゃないけど、勝手に決めていいのだろうか……



「では、これから校外学習の班決めをしようと思います――」


 このように進行を務めているのは、学級委員長である吉田祐介よしだゆうすけ


 吉田はクールで、爽やかイケメンであり、クラスや学年だけでなく、学校中でも人気者である。

 そのため、同じような立場にいる柊木さんや美羽とも、結構話しているのを見かける。


 柊木さんが吉田に対して、俺と同じように冷酷姫モードにならないのはいささか引っかかるが、吉田のことは別に嫌いではない。


「先生から聞いている通り、班は自由に決めてもらって大丈夫です。男女二人ずつの班のみ認められているので、そこだけは注意してください」


 吉田の話が終わると、クラスの皆は一斉に動き始めた。

 と言っても、クラスの皆はほぼ同じところに向かっていくのだが。


「吉田くん! 私と一緒の班になろうよ!」


「ちょっと! 祐介くんが困ってるでしょ!? 私と同じ班になる予定なんだから!」


「柊木さん! 僕と同じ班になりましょう!」


「桃井さん! 俺たちと一緒に遊園地楽しみませんか!?」


 このように、柊木さんと美羽を除いた女子たちは吉田のところに行き、俺と吉田を除いた男子たちは柊木さんと美羽のところに行った。


 完全に俺は孤立状態である。

 すごく悲しいよ……

 まるでけ者みたいじゃないか(完全にその通り)。



「ごめんね。僕はもう一緒の班になろうと思っている人を決めてるんだ」


「あなたたちと一緒の班になるわけないでしょう? そんなことも言われなきゃ分からないのかしら」


「ごめんね〜。私はもう晴と一緒の班になるって約束したんだ〜」


 当の三人は、寄ってきた人たちからの誘いを断わり、完璧に同じタイミングで俺のところに近づいてきた。


 美羽はさっき約束したもんね……

 って、どうして吉田と柊木さんが俺のところに!?


九条くじょうくん、よかったら僕と同じ班にならない?」


「九条くん、よかったら私と……」


「晴〜、皆の誘い断ってきたよ〜」


 どうして見事に同じタイミングでやって来るんだ!?

 ある意味すごいぞ!? って、それどころじゃなくて……!


「どうして俺なんだ? もしかして……」


「安心して。僕は彼女たちを狙っているわけではないから」


 彼女たち、というのは柊木さんと美羽を指しているのだろう。

 そう、俺が吉田を別に嫌っていない理由は、柊木さんを狙って、下心丸出しで話しているのではなく、同じような立場の‴仲間‴として接しているからだ。


「それに……」


 と言って、女子たちがいる方を向いてから、俺の方にどんどん近づいてくる。


「僕には彼女いるから」


「そうなのか!?」


「ちょっ……! 静かに! 他のクラスの子なんだけど、秘密にしているんだ。だからどうか内密にして欲しい」


 どうして俺にそのことを話すのかは分からないが、恐らく柊木さんと美羽を狙うことは有り得ない、という意思表示なのだろう。


「わ、わかった……」


「あの……九条くん、私は……」


「あ、柊木さんはもちろんいいよ! むしろ俺からお願いしたいくらいだし」


「そう……よかった……」


 俺の了承の言葉を聞いてほっとしたのか、柊木さんは胸を撫で下ろした。


「よし、これでぴったり四人だね。校外学習、全力で楽しもう!」


「「「お〜!!」」」


 班決めの時間になる前まで二つの問題にさいなまれていた俺だが、案外すぐに問題は解決した。

 新しい男友達もできた上に、好きな人とも校外学習を楽しめるなんて、ものすごく幸せである。



 校外学習、全力で楽しんでやる……!

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