第32話

 学校で昼ご飯を食べているとき、葉山さんが僕とユイ、御崎さんに訊ねた。

「来週末に隣町の河原で花火大会がありますけど、一緒に行きませんか?」

「花火大会? さくら、それは何だ?」

 ユイは冷やし中華をほおばりながら、葉山さんに聞いた。


「打ち上げ花火を見るんですよ。毎年色々な食べ物の屋台なんかも出て、楽しいですよ」

「何!? 食べ物の屋台か!? それは行ってみたい!! 晴人、行けるか?」

 ユイがキラキラした目で、僕を見つめた。

 僕は野菜炒め定食を食べながら答えた。

「ユイは、その日はアルバイトじゃなかった?」

「午前中は引っ越しの予定があるが、午後は空いている」


 葉山さんがにっこりと笑った。

「それじゃ、ユイちゃんとフレアちゃんは、花火大会の前に家に来てくれませんか?」

 御崎さんは、すうどんをすすりながら葉山さんを見つめた。

「我もか? 何故だ?」

「女の子には、準備が必要なんですよ? ね、ユイちゃん、フレアちゃん」


「……さくらがそう言うなら、行こう」

 ユイが先に頷いた。

「ふむ。人間界のしきたりがあるなら従ってもよかろう」

 御崎さんも、葉山さんの提案を了承した。

「それじゃ、花火大会の日に、駅前で待ち合わせにしましょう」

「そうですね」

 葉山さんは嬉しそうに微笑んでいた。


 花火大会の当日。


 ユイと御崎さんは葉山さんの家に向かった。

 僕はシャツと短パンに着替えて、時間になるまで家でゆっくりしていた。

「そうだ、田中くんも誘ってみようかな?」

 田中君は、時々学校に来るようになった。田中君はユイや御崎さんと挨拶をして、休み時間は大体、本を読んでいる。たまに僕と簡単な世間話をするようにもなっていた。


 田中君にラインで今日の花火大会に行くか聞いてみた。

 行く、と短い返事が返ってきた。

 僕は葉山さんに、田中くんも花火大会に誘ったことを連絡した。すると、直ぐに『分かりました』という返事が返ってきた。


 待ち合わせの時間に近づいたので、僕は駅に向かった。

 駅に近づくにつれ、浴衣の男女が増えてきた。

「伊口君……」

「あ。田中君。人混み、大丈夫?」

「うん。葉山さんと、ユイさんと、フレアさんは?」

「そろそろ来ると思うけど……」


 僕達が時計を見ていると、背後から声をかけられた。

「お待たせ! 伊口君、田中君!」

「あ、葉山さん……って、みんな浴衣に着替えてきたの?」

 僕と田中君は、葉山さん達の浴衣姿に見とれていた。

 皆、似合っていてとても可愛かった。


「それじゃ、花火会場に行こうか」

 僕は葉山さん達に言った。

「そうですね」

 葉山さん達は僕達の後について、駅に入っていった。

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