第31話
「田中君、外には出られるんだね」
「……近所とか、コンビニくらいなら出かけるし」
田中君は僕が思っていたより、外出に抵抗は無い様子だ。
「スカイ、よく自分たちについてきたな!」
ユイはにっこりと笑って言った。
田中君はユイの笑顔の可愛さに、ちょっと面食らった感じで言った。
「家に居て、母さんのため息を聞くよりはマシだと思ったから」
「そうか、スカイの母上はため息をつくのか? 何故だ?」
ユイが地雷を踏んだ。僕は慌てて言葉を放った。
「いつも二人きりなの? それじゃ、結構息がつまるんじゃない?」
僕の言葉を聞いて、田中君がため息をついた。
「ま、そう言うときはコンビニに行くか、部屋に戻るだけだし」
「お、そろそろフレアの喫茶店につくぞ!」
ユイが言った。
「この店? なんか混んでない?」
田中君が渋い顔をしている。
「入るぞ!」
ユイは気にせずドアを開けて店の中に入って行った。
「フレア、頑張ってるか!?」
「その声はユイか!? 我を笑いに来たのか!? 出て行け!!」
「はいはい、フレアちゃん。お客様には何て言うのかな?」
竹田さんが毒づくフレアに奥から声をかけた。
「ぐっ……。いらっしゃいませ。ようこそ喫茶店アリスへ」
御崎さんは引きつった笑顔で僕達にお辞儀をした。
「よく出来ました、フレアちゃん。久しぶりだね! 晴人君、ユイちゃん。あとは……」
「コイツはスカイだ!」
ユイが大きな声で言うと、田中君は嫌そうな顔をした。
「田中君です」
僕がそういうと、田中君は軽く竹田さんに会釈をした。
「スカイは学校が嫌いで、休んで居るんだ」
「ちょっとユイ、そういうことはあんまり大きな声でいったら良くないだろ?」
慌てて僕がユイの言葉を遮ると、ユイはきょとんとして首をかしげた。
「そうなのか? 学校は行かなくても良いのだろう?」
「……あんまり、良くない」
田中君が呟くように言った。
「……込み入った話なら、奥の席が良いかな?」
竹田さんは状況を察してくれたのか、目立たない席に案内してくれた。
「ご注文が決まりましたら、お呼び下さい」
僕達が席に着くと、御崎さんが無愛想な声で言った。
「フレアさん……? 君の親もずいぶん思い切った名前を付けたんだね」
田中君が御崎さんの名前に反応した。
「は!? 我に親などおらぬ! そんなことより、注文を教えろ!」
フレアはそう言うと、田中君にメニューを渡した。
「僕はアイスコーヒー。田中君は?」
「僕もアイスコーヒー」
ユイはメニューを見ると目を輝かせて、写真を指さした。
「自分はコーヒーフロートにするぞ!」
「了解した。アイスコーヒー二つとアイスフロートだな」
フレアは注文をメモすると、竹田さんの居るキッチンの方にに戻っていった。
「田中君、学校に来る気は無いの?」
僕はストレートに聞いてみた。
「いまさら行っても、良い事なんて無いだろ? どうせ大井先生に言われて僕を呼びに来たんだろ?」
「よく分かったな! スカイは勘が良いんだな!?」
ユイはそう言って、目を丸くした。
「……そうとしか考えられないだろ? 僕は学校へは行かない」
田中君は手を組んで、目をそらして僕達に言った。
「……学校に行きたくない? 家はそんなに楽しいのか?」
ユイが訊ねると、田中君はため息をついた。
「別に。ネット見てるか本読むくらいしかしてないし、楽しいわけじゃない」
「そうか。スカイは学校が嫌いなのか? 自分は楽しいが……」
「……他人に囲まれるのは疲れるから苦手だ」
田中君がそう言ったとき、竹田さんが飲み物を運んできた。
「はい、アイスコーヒーとアイスフロート。どうぞ」
「ありがとうございます、竹田さん」
竹田さんは僕達の前に飲み物を置いてから言った。
「ちょっと、聞こえてきちゃったんだけど、君も他人が苦手なの?」
「……え?」
「僕も学校が嫌いでね。高校の時は、結構休んでたからさ」
「何!? 竹田も名前で虐められらのか!?」
竹田さんは笑って首を横に振ってから言った。
「僕は違うけど……。スカイって名前は個性的だね。それで何か言われちゃったの?」
「……はあ、まあ……」
田中君は俯いてアイスコーヒーを飲み始めた。
「学校休むとさ、母親と一緒に居るのが辛かったな」
竹田さんはそう言うと、田中君に尋ねた。
「君には夢とか有るの?」
「……ラノベ作家……」
田中君は意外にも素直に答えた。
「へえ! じゃあ、学校に行った方が取材できて良いんじゃない?」
「……でも、からかわれたり馬鹿にされるのはされるのは嫌だし……」
田中君の言葉を聞いて、ユイが言った。
「スカイ! そんな奴は自分が許さないぞ!?」
ユイはそう言ったあと、コーヒーフロートのアイスを一口食べた。
アイスがユイの口元についている。田中君はその様子を見て苦笑した。
「我の手下になるなら、守ってやるぞ!?」
フレアが口を出してきた。
「フレアさんは、名前でからかわれたりしないんですか?」
「名前を馬鹿にする奴は、紅蓮の炎で燃やし尽くしてやるわ」
御崎さんは片手を額にかざして、ポースを決めて言った。
「……なんか、僕が休んでる間にクラスの雰囲気変わった?」
「うーん、ユイが転校してきてから、関口先生も大人しくなったし、ユイのファンクラブも出来たし、楽しくなってるかな?」
僕がそう言うと、田中君は悩んでいる様子だった。
「フレアさんは虐められてないんですか?」
御崎さんが目を見開いた。
「は!? 我は魔王だぞ!? そんな奴がいたら叩き潰してくれる!!」
「フレアさん、メンタル強い……」
田中君はため息をついた。
竹田さんが、御崎さんのあたまをなでながら田中君に言った。
「ま、高校は辛かったけど、大学は楽しかったよ。田中君も、夢もあるみたいだし、家が辛かったらここにおいで。勉強でも執筆でも、自由にしてていいよ」
「……。学校に行かないことを責めないんですね? 大人なのに……」
「だって、僕も学校嫌いだったからね」
田中君は、そっか、と呟いてほんの少し微笑んだ気がした。
「今、クラスには僕とユイと御崎さんがいるから、一人になることは無いと思うよ?」
「……気が向いたら、行ってみるかな……」
「ま、行けるときに行けば良いと思うよ。それじゃ、また来てね」
竹田さんはそう言ってキッチンに戻っていった。
「伊口君達って、変わってるね」
「そうかな?」
僕はそう言ってからアイスコーヒーを飲んだ。
「大井先生には、田中君が元気だったって伝えとくよ」
「……うん」
「学校に来たら、一緒にご飯食べよう」
「……気が向いたらね」
田中君はユイのことをチラチラと見ていた。
「スカイ、学食は美味しいぞ!! 一緒に食べよう!!」
「まあ、そのうち……」
僕達はコーヒーを飲み終えると、店を出た。
「じゃ、またね」
「スカイ、達者でな!!」
「なんだよ、その台詞」
田中君はユイの言葉に、笑顔を浮かべた。
店の前で解散すると、田中君は家の方に歩いて行った。
「スカイは学校に来ると思うか?」
ユイは腰に手を当てて、僕に尋ねた。
「うーん、興味はもってくれたみたいだけど。難しいかもね」
「そうか。……一人は寂しいだろうな」
ユイは田中君の去って行った方向を見つめて呟いた。
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