第26話
お昼時間になった。
「御崎さん、一緒にお昼食べない?」
「断る。何故、我がつまらぬ平民と食事をせねばならないのだ?」
ユイが言った。
「フレア、嫌ならそれで良いぞ。晴人、さくら、食堂に行こう」
「あ、待て。どうしてもと言うのなら、一緒に行ってやろう」
御崎さんは結局、僕達についてきた。
僕達は食堂の席に着いた。
「えっと、今日は何食べようかな?」
「A定食にしようかな」
葉山さんが選んだA定食は、唐揚げ定食だった。
「僕もそれにしようっと」
「私はA定食、B定食、C定食にしておこう」
「フレアちゃんは、何にする?」
葉山さんが御崎さんに尋ねると、御崎さんは悲しそうな顔で答えた。
「……我は水だけで良い」
御崎さんはそれだけ言うと、水をくみに行った。
「魔王って、水だけで生きられるの? ユイ?」
「そんなはずはないぞ? 私と同じくらい食べたはずだ、フレアは」
「それじゃ、何故?」
「またせたな、愚民ども!」
御崎さんは両手に水を持って戻ってきた。
「御崎さんは何も食べなくて良いの?」
御崎さんは俯いて、小さな声で言った。
「……金が無いのだ」
「え?」
「金が無いのが、おかしいか? この愚民め!!」
「そうか、なら私の定食を一つ分けてやろう。フレア、どれが良い?」
御崎さんはよだれを拭って首を振った。
「勇者の施しを受けろと言うのか? この魔王に向かって!」
そのとき御崎さんのお腹がぐぐうっと鳴った。
御崎さんの顔は真っ赤だ。
「……しかたない、そんなに言うなら食べてやろう」
「C定食で良いか?」
ユイが御崎さんの目の前に、あじの塩焼き定食を置いた。
「魚の目が、我を睨んでおるが……」
「じゃ、B定食をやる」
「……これで勝ったと思うなよ、ユイ」
「そこは『ありがとう』だ」
「くっ……」
御崎さんは、しばらく水と定食の間で葛藤した後、ぽつりと言った。
「……ありがとう……」
「それじゃ、これを食え」
ユイは御崎さんにB定食の焼き肉定食を渡した。
「肉!!」
御崎さんはそう言った後は無言でガツガツと肉を頬張った。
「美味い、美味いぞ!?」
御崎さんの様子を見て、僕達は苦笑した。
「あの、お金が無いんですか?」
「ああ、魔界からは毎月五万円送られてくるんだが宿代で消える」
「そうですか、じゃあ、アルバイトをしてみませんか?」
葉山さんが御崎さんに提案した。
「知り合いのお店で、ちょうどアルバイトの募集がでてるんですよ」
「アルバイトとは何だ?」
定食を食べ終えた御崎さんは、首をかしげている。
「働くんですよ」
「我が愚民の元で働くというのか!?」
葉山さんの言葉に、御崎さんの眉がピクリと上がった。
「……はい!」
葉山さんはニコニコと笑っている。
「葉山さん、御崎さんにできるかな?」
「フレアちゃんの可愛さなら、直ぐにOKが出ると思います」
「え?」
僕は葉山さんの言葉を聞いて、すこし不安になった。
「可愛らしい制服ですし、オーナーも変わった方ですから。きっとフレアちゃんを気に入りますわ」
葉山さんの笑顔が、なんだか怖いと僕は思った。
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