第40話 文化祭 1

 ハロウィンが終わると秋というものは特に世間ではイベントはない。

 なんとなく十一月を過ごし、知らん間に十二月になり、クリスマス、正月。

 えっ、もう年越したの? やっば~っというのがテンプレだ。ちなみに全然やばくない。

 っとまぁ、こんな風に世間的に秋にはあまりイベントはない。だが、学生にとっては例外が発生する。そう、この秋という季節は一番イベントが大きい季節なのだ。


「……はい。昨日で定期テストも終わったので、さっそくホームルームしていくわよー」


 金岡先生が前で話しているがテスト明けということもあって、周りの生徒はどこかゲッソリしていた。

 かくいう俺も今回のテストはかなり苦手範囲が重なり、対策するのに少々手がかかった。うん、少々。ここ大事。

 ……そういえば神代は大丈夫だったかな。

 夏の時以来、口酸っぱく注意したが……と考えていると、


「以上で連絡は最後になります。じゃあここからは秋の後半行事、文化祭について決めていこうかしら。よしっ、ここからは君たちに任すわ」


 連絡を聞き逃してしまったが、まぁいいだろう。

 基本金岡先生は行事ごとは生徒に丸投げなので、この展開ももう見慣れたものだ。

 金岡先生が隅へ移動する。司会を出さないといけない空気になる。


「やっぱ、海斗だな」

「黒沢君、今回もおねがーい」


 クラスのみんなが内々に騒ぎ出す。


「仕方ないなぁ」

 

 そして、黒……海斗が前に出る。ここまでがテンプレ。移動するときにはヒューヒューとか歓声が上がる。結婚式のバージンロードかよ。

 前に立つやみんなの期待通りにスラスラと説明を始める。いや、ほんとこいつ話進めるの上手いな。練習してる?


「お前、司会上手すぎてわろた。練習やってるんじゃね?」


 クラスメイトの一人が言った。代弁ありがとう。


「……という訳だけど。他のクラスに勝てるといいね! みんな頑張ろう!」


 爽やかな表情で語りかける海斗におー! と答えるクラスメートたち。

 なぜなのかというと、俺はリレーのことだけで頭がいっぱいだったが、前回の運動会で俺達の組は優勝していたからだ。

 そして、今回の文化祭では俺達二年は劇を担当することになり、毎年一クラス最優秀賞が与えられることとなっている。

 みんなやる気十分……というわけだ。

 ちなみに三年は受験のため比較的準備の少ない屋台、一年は毎年縁日であるような出し物が割り振られていた。


「さて、どんな劇にするかだけれど、みんなはどういう劇にしたいかな? オリジナルでも全然いいし、どっかの作品から取ってきても全然ありだね」


 海斗の言葉に以前、体育祭の玉入れを俺から横取りした女子が手を挙げた。


「私、シンデレラやりたーい! もちろんお姫様役は男子で! ウケそうじゃない?」

「アリかもー!」

「オイオイーマジかよー!!」


 クラスは一気に盛り上がり、その後もあれがやりたいだの、これがやりたいだの、金岡先生も最近腰が痛いだので話はまとまらなかった。うん、最後は完全に金岡先生のせい。


 キンコンと終了の合図が鳴り、今日は意見を出すだけで終了した。まぁ、最初はこんなもんだろう。ほら、あれだ。ブレインストーミングってやつ。

 別に何をやろうと、俺にはあまり関係ない。普通に裏方だろうし。

 そんなことを考えながら、荷物をまとてめていると海斗が話しかけてきた。


「いきなりだけどさ、今から湊のカフェ行っていいかな。ちょっと流石に僕も疲れちゃって」

「おお、構わんが。部活は大丈夫なのか」

「うん。今日はオフの日だから」

「そうか」


 それから俺達は荷物をまとめ、一緒に学校を出た。そういえばこうやってたまに誰かと一緒に帰るようになったのも小さな変化だな。きっかけは百瀬だったが。

 丁度コンビニの前を通り過ぎるくらいのところで海斗が呟く。


「湊はさ、最近変わって来たよね。何というかお節介焼きになった?」

「そんな世話なんかした覚えないが……でもまぁ、人って変わるものだろ」

「それもそうだね。でも、少し前までは僕と一緒に帰るだなんて思わなかっただろ?」

「思わなかった」

「どれくらい?」

「宝くじが当たるくらい」

「マジか。そんなにかい?」

「うむ」

「そっかー」


 なんてことない会話。でも、こうしてあることがきっかけで人と人との関係性は変わっていく。

 いや、俺の場合は人と関わることによって、その人のイメージが変わっただけなのかもしれないが、少なからず俺自身にも影響していると思う。


「何ぼーっとしてるんだい? 湊。ほら、着そろそろ着くよ」

「お、悪い悪い。少し考え事してたわ」

 

 気が付くともう視界の隅にカフェが見えだした。さて、今日も頑張るとするか……。

 すると、店内の明かりが既に点いているのに気づく。

 もうすでに誰か準備してくれているのか。


「ちょっと、店内準備中かもしれないからここで待っててくれ」

「了解。本でも読んどくよ」

「おう、すまん」


 そう言い、俺はドアを開く。

 店内に入り、カウンターの方へ向かうと神代が作業していた。


「あ、先輩!! お疲れ様です!! 今日は私の方が早かったですね!! 優秀なバイトで良かったですね」

「へいへい。トイレ掃除終わったのか?」

「あ」

「優秀なバイトね……」


 むぅ~っと頬を膨らます神代にクスクスと笑う人が。


「こんにちは。湊先輩」

「お、百瀬も来てたのか。ってことはまぁ、開店作業はやり終ってる感じか」

「この優秀な私の」

「はよ、トイレ掃除」

「もおおおおおおおおおおおおお!!!!」


 神代がほっぺを膨らませているのを笑っていると、海斗を待たせていることを思い出した。

 すぐに入口に戻り、


「おーい、海斗もう入ってきていいぞ」


 そう言って海斗を店に入らせる。


「外もだいぶ冷えるように……。あっ……えーとっ……神代さんこんにちは。あと百瀬さんも」

「……うん、こんにちは」


 ……ん? なんかちょっと今のテンポ違和感があったような……。まぁ、いいか。


「そういえば神代。前、言ってた給料アップの件だが……って何だその顔は!?」


 神代はなんか苦いものでも食べたかのような表情だった。

 

「あ……ちょっと、えーっとその……家の鍵どっかに落としたような気がした……みたいな……」

「……お、おう。まぁ、たまにあるけど」


 海斗はいつも通りのさわやかな笑顔で、百瀬の席から一つ間隔を空けて席に着いた。

 ……いや、やっぱり今日何かがおかしい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る