第33話 体育祭 4

 目の前のグラウンドでは赤白緑黄色と、四色に分かれたユニフォームを着た生徒たちがえっちらこっちらと玉投げをしている。

 赤チームには俺から玉入れをかっさらった女子軍団も見え、周りの生徒も自チームを応援したり、友達と写真を撮ったりとそれぞれ青春の一ページを楽しんでいる。……俺も混ざりたいなぁ。

 体育祭当日。プログラムも後半に差し掛かり、盛り上がりも最高潮。そんな中、


「次は学年リレーです。競技に出場する人は入場の準備を行ってください」


 アナウンスが耳に届き、俺はため息を吐きながら、赤い鉢巻を結び直し、自分の待機場所を後にする。

 重い足取りをなんとか動かしながら、入場場所へと向かっていると肩をトントンと叩かれた。

 俺と同じく、赤いハチマキをした海斗はいつもと変わらない調子でほほ笑んでいる。


「ついに本番だけど調子はどうだい?」

「大丈夫そうに見えるか?」

「見え……ないね。でもまぁ、やれるだけのことはやった。そうでしょ?」

「まぁ、そうだが」


 あの後も平日は自主練、休日は海斗と神代にコーチをしてもらい、そこそこ上達していったが、昨日でやっと男子高校生の平均タイムといったところだ。

 早くなったとはいえ、運動部が多く出場するリレーではお世辞にも役に立てるとは言えない。


「あれだけ練習したんだ。そして、タイムも早くなっている。自信を持っていいよ。そんで最後の僕までに繋いでくれたら。湊からのバトンは必ず僕が一位でゴールへ持っていくから」


 走者順は俺が三番目で、アンカーが海斗だ。こいつほど頼れるアンカーもいないだろう。


「なんでお前はそういうこと軽々と言えんのかマジで理解できないわ」

「ふふっ、ただカッコつけてホラ吹いているだけだよ」


 それでもきっとこいつは、海斗はやってのけてしまうんだろうな。

 ただ、それは仲間の走者が並以上のメンツなら、だ。

 海斗は気を遣ってああ言うが、俺みたいな遅いやつがいたら、いくら海斗でも厳しいだろう。

 なるべく、そうはならないよう最下位だけは避けたい。あと、カッコ悪いし。


「やれるだけやってみるわ」

「うん、その調子」


 すると、遠くから「海斗ー!」と呼ばれる声が。

 よく見ると一、二走者のバスケ部が大きく手を振っている。


「呼ばれてるぞ」

「みたいだね。じゃあ、あとは本番で」

「おう」


 ここで俺を連れ出さない辺り、やっぱり海斗は周りの人間をよく見ている。

 今回の件で初めて、海斗と深く関わったが、クラスのみんながこいつを信頼している理由がよく分かった。……あ、そういやまだ礼言ってなかったな。

 俺が駆けだそうとする海斗を呼び止めると、海斗は少し驚いたように振り向いた。


「……そのまぁ、ありがとな。練習付き合ってくれて」

「あぁ、気にしないでいいよ。もちろん湊を手助けしたいと思ったのは本当だけど……その……今回はちょっと下心も入ってるし」

「ん? どういうことだ?」

「まぁ、僕もみんなが思ってるより子どもなんだなって気づいただけだよ」


 そう少し意味のある言葉を残して、海斗は前の運動部の方へと走ってた行った。


***


 俺が入場する門からグラウンドへ向かっていると、一年生の部が終えた神代が俺を見つけるやいなや、前からテトテトそばへ寄ってきた。


「先輩、先輩っ見ましたか!? 私の完璧で華麗な走り! いやぁ〜どうしてもっていうならお手本にしてもいいですよ〜」

「しねぇし、できねぇし」


 神代も俺と同じく赤チームで、アンカーを務めていた。

 入場する場所で待機しながら眺めていたが、えげつない走りで独走状態だったぞ。


「次は先輩の番ですね。今、赤チーム大事なところなんですから、ちゃんと私からのバトン受け継いでくださいよ〜」

「プレッシャーかけるようなこと言わないでくれる!?」

「ふふ、頑張って下さいっねっ!!」

「痛っ!!」


思いっきり背中をバチンと叩かれ、思わず声が漏れる。


「何すんだこら」

「気合いですよ、気合。注入してあげたんですよ」

「気合でどうにかなるならこんなに苦労しないわ……」

「ほ~ら、またそんな屁理屈ばっかり。大丈夫ですって。私の教えたとおりに走れば……えーっと……そのまぁ、ワンチャン狙えると思いますよ!」

「ワンチャンって……」


 こいつやっぱ嘘つくの下手だな。そしてフォローするのも下手だ。

 本当に呆れてしまうが、思わず笑みがこぼれ、少し気持ちが軽くなった気がした。


「何一人でフフフって笑ってるんですか? キモイです先輩」

「いや、気合割ともらえたかもしれんと思ってな」

「え?」

「……まぁ、頑張るわ」


 キョトンとしていた神代に俺は伸びをしながら答える。


「ま、任せてください! 周りがブーイングの嵐でも私はちゃんと応援しますよ!」

「うるっせ」

「でふっ」


 コツンと軽くチョップした後、俺は神代と別れ、みんなが集合するグラウンドへと向かう。

 ポイントが書かれている看板を見ると、赤チームは現在二位らしい。ポイント差的に一位の黄色チームがこのリレーで勝ってしまうと優勝が確定しまうな……。


 三年生がまだ残っているのもあり、先輩もエンタメ的にここで一位を取らせたくないのだろう。三年生側からも歓声が凄い。というか圧が凄い。正直怖い。


 そんなことを考えていると、前で軽い競技説明が事務的に行われ、各々配置場所に行くよう指示がされた。


 前のレーンで一走者達がスタートの準備を行い出すと、辺りは不気味なほど静かになり、自分の心臓の音がドクンドクンと聞こえてきそうだ。


「よーいっ!」


 パンッと銃の合図とともに各生徒は一斉に走り出し、溜まっていたものが噴火するように観戦している生徒は応援の声を張り上げる。あちこちでドンドンドン! とメガホンを鳴らす音も。

 こうしてレースの幕は今、開けられたのだった。



☆☆☆

どうも久々の砂月です!

遅くはなりましたが一つの目標としていた一万PVを達成することができました!

またブクマも二百人を超えました! やった~!

いつもお読みいただきありがとうございます!

これからもよろしくお願いします!

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