第30話 体育祭 1
窓から見える校庭の木々は装飾を赤や黄色に染め、少し涼しい風は肌を優しくなで、眠気を運んでくる。まぁ、ここの席は日当たりも良く、年がら年中眠いに違いないが。
「~っていうこと。新学期早々で申し訳ないけれど、体育祭の準備をしていかなければならないのよ。しかもそれが終わると、次は文化祭だからその役員も決めていかないと……」
相変らずぼうっとしていて話を聞いていなかったが、
金岡先生は俺の担任で、三十代くらいの女の先生だ。ショートカットに鋭い眉毛。そして、美人な顔立ちに身長も高い。男子生徒はもちろん、女子生徒からも王子様と人気が高い。ちなみに担当科目は数学だ。
それにしても体育祭か……。俺、勉強はそこそこ出来るんだが、運動は正直引くほどできないんだよなぁ……。
ま、無難に二人三脚とかのあまり運動神経が必要のない種目に出るとするか。
パートナー(?)とコミュニケーションが必要だが、恥をかくよりはマシだ。
金岡先生にそそのかされ、クラスの中心人物である男子生徒が教卓へと出る。爽やかな顔立ちに明るすぎない茶髪。名前は
「というわけで、金岡先生の話にもあった通り、種目を順々に決めていきたいんだけれど……。じゃあ、まずは二人三脚とかからいこうかな。誰か出たい人いるかな?」
早速お目当ての競技が話に上がり、俺がそっと手を上げようとすると、前方の二人が机を立つ。
「はいはいはい! 私たち出まーす!!」
「まさにこの種目、僕たちのためにあるようなものじゃないか!」
勢いよく手を挙げた男女。クラスで一番熱々のカップルである。
はい、これはもう手挙げれませんね。
ため息を吐きながら、黒板を眺める。あといけそうなのは借り物競走とかか。
「じゃあ、二人三脚はこれで決まりということで……次は借り物競走いこうかな」
今度はさっきみたいな雰囲気はなさそうだが……と、思ったが見事に俺の勘は外れる。
「ここは俺たちの出番だな! 今までの練習の成果見せてやろうぜ!」
「絶対トップでゴールしてやるぞ!」
「どんなやつが相手でも俺たちの敵ではない! 共に高みを目指す者は俺たちに続けぇ!!」
屈強な男たちが続々と手を挙げる。
いや、お前らどう見ても運動系の種目の方が適任だろ。ってか借り物競争で何練習するんだよ。逆に気になるわ。
暑苦しいメンバーにそっと手を下げる。おいおい、いよいよ出れる種目無くなってきたぞ……。いや、マジでもうリレーとかじゃなければいいんです。ほんと頼む。一生のお願い。
「じゃあ、借り物も決まりっと……次は玉入れかな」
もうやけくそだ。なんでもいいです。運動系の種目じゃなければ。
パッと手を挙げる。もう流れに流されている場合じゃない。
「えっと……皆川君と……」
黒沢が俺の名前を呼んだところで、前方の女子がコソコソと話し合い、一斉に手を挙げる。その中で、一番リーダー格の女子が口を開いた。
「私たちもやりたーい。でも、六人までかー。私たちみんなで六人だから一人はみ出しちゃうねー」
そう言い、こちらをじーっと目線が俺に集中する。うん前言撤回。いや、もうこれで気にしないふりできるやついんの?
「まぁ、それなら他のところ行くわ……」
「えっ、ほんと? やったぁ! ありがとう皆川君!」
きゃっきゃと喜び合う女子達。同情するよと言わんばかりに苦笑いする黒沢。悲しくなるからやめてくれ。
っていうかやばいぞほんとこれ。どんどん出れそうな種目が消えていってるんだが。
もう最悪百メートル走でもいい! クラスのみんなが注目するリレーを避けることができれば!!!
「それじゃあ次の種目は……」
***
「どうしてこうなった……」
ホームルームが終わり、放課後、一人自分の座席にて落ち込む俺。
まだ消されていない黒板には俺の名前が書かれている。しかし、大事なのはその場所だ。
「リレー 皆川湊」
あの後なんとかリレーだけは避けようと奮闘したが、運悪くじゃんけんに負け続け、結果ご覧の通りである。ははっ、もう休もうかな俺。
「ほんと洒落になんねぇぞ……」
ため息を吐いていると、誰かに肩をぽんぽんと叩かれる。
「皆川君、リレー頑張ろうね」
「黒沢……」
相変わらず憎たらしいくらいの爽やかフェイスで俺を励ます黒沢。こいつも競技はリレー種目だ。もちろん俺みたいなネガティブな決まり方じゃなく。普通にクラスのみんなに推されて。
「お前、俺が運動できないの知ってるだろ……」
「ま、まぁね……。でも、まだまだ運動会までは時間あるしさ。ほらっ、走ったりするなら僕も付き合うよ」
苦笑いで答える黒沢。っというのも、俺と黒沢は去年も同じクラスだったからだ。
知り合ったきっかけは体育の時間の時。
テニスでペアを組むとき、俺は運動が出来ないのを隠そうとし、わざと一人になろうとしたのだが、この黒沢はそんな俺がペアを作りたくても作れない悲しいやつと勘違いし、話しかけてきたのである。
もちろんその時に運動センスがないこともバレた。
「幸い、リレーは球技のようなセンスをあまり必要としないと僕は思うんだ。そりゃ、上を目指そうと思えば話は変わるけど。体力さえつければきっと皆川君なら大丈夫だよ!」
「そ、そうか……」
「うん! やろうよ!」
熱く俺を鼓舞する黒沢。こいつほんといいやつだよな。俺が女子ならすぐ惚れてるに違いない。
それにしても練習……練習か……。正直めちゃくちゃやりたくないが、しないと恥をかくのは目に見えている。そんなことになれば神代にもまたなんか言われるし……って別に神代は関係ないだろ。何考えてんだ俺。
「お……おっけ……やるわ……」
「オッケー! じゃあ土日なら僕も空いてるからまた連絡するよ」
黒沢はそう言って部活へと向かっていった。
明日から地獄の特訓が始まる。
気分は最高にどんよりしているのに、そんなことは知らんぷりといった感じで空は最高に青く澄んでいた。
☆☆☆
砂月です。
……あの長らく更新が滞りすいませんでした。シンオウ地方に出張に行ってました。
ということで体育祭編スタートです。よろしくお願いします!
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