第29話 夏の終わり、渚にて
楽しかった時間というものはあっという間に過ぎてしまうものだ。
ほんとちょっぴり悲しいくらいに。
夕日が照らす海を砂浜に座って、一人ぼうっと私は眺めていた。
「何してるの真鳳?」
ふと声をかけられ、振り向くと絵里が不思議そうな顔でこちらを眺めている。
「いや……まぁ、ちょっとね。夏も終わるんだなぁって感じてただけ」
「そうだよ~。ほんとあっという間……そして、それは高校生活も同じ。あっという間なんだよ」
どこか微笑みながら、絵里は私の横に腰を下ろした。
「そんで……先輩に対しての気持ちに整理はついたの?」
いつもとは雰囲気が違う絵里。真剣な表情にちょっと私は戸惑う。
「……まぁ、一応は」
「なんだそれっ。好きなくせに~」
「もうっ、からかわないでよ」
「ほんと、やっと自分の気持ちに素直になったと思ったらこれだからね……。モタモタしてる場合じゃないっていうのに」
「私には私のペースがある……し」
その言葉を聞いて、ため息を吐く絵里。
けれど確かに絵里のいう事も一理ある。
いつもはグイグイ先輩に絡んでいく私だけれど、二人で出かける時などは中々誘えない。
でも、じゃあそういう時、私は怖気づいていたかと言われれば違う。私なりに今まで頑張ってアピールしたり、誘ったりしてきた。
だが、今回はちょっと誘いをためらってしまった。理由は絵里の存在だ。
絵里は私から見ても綺麗で可愛くて、でもたまにおかしなところもあって、そして……そのおっぱいも大きいし……つまるところ、私なんかより魅力的な女の子なのだ。
だから私は怖かった。絵里が先輩と仲良くなっていくことが……なんて。ほんとめんどくさい女だな私……。
「さて、真鳳さん。ここで問題です」
「は?」
「友達に好きな人がいます。その人の相談に乗っているうちに、自分もその人が好きな人に恋をしてしまいました。さて、自分はどうすれば良いでしょう?」
「え、それってまさか……」
絵里も先輩のこと……。
しかし、絵里はなぜかケロッと笑い始めた。
「ははは! 冗談冗談だって~。真鳳その顔面白~!」
「ああ、もうほんっと絵里のあほ!」
「いや、ごめんごめんって~あまりにも顔が絶望してたからさ~」
そんなに言われるほどおかしい顔をしていたのか私は……!
すると、また絵里が微笑みながら話し始める。
「……でも、それだけ他の子には渡したくないってことでしょ? たとえ、自分より綺麗な人や可愛い子がいても。……ならグダグダしてる暇はないんじゃないの? 私は別にあれだけど、他の子が狙ってるかもしれないじゃん。ほら、二年生だし……私達が知らないだけで先輩モテてるかもよ?」
「た、確かに……」
先輩のことは私が一番知っていると思っていたけれど、今思い返してみるとカフェの中での先輩がほとんどだ。
学校でも姿は見ているが、休み時間などのごく限られた時間なわけで……。あぁ、どうして私は後一年早く生まれなかったんだろうか。
「そろそろ決めちゃってもいいんじゃないかな? まっ、なんかあったら協力するからさ。女同士の友情ってやつ」
「絵里……」
さっきまでウジウジ考えていた私はなんて子どもだったんだろう。誰が魅力的だとか関係ない。
私は先輩が好きだ。それだけは誰にも負けていない……と思う。そんな大事なことに気が付かなかったなんて……やっぱり絵里には敵わないや。
「おーい! 片付けも終わったからそろそろ帰るぞー」
すると、背後から聞きなれた先輩の声が聞こえた。パラソルの片付けさぼっちゃったから後で謝らないと。
「じゃ、行こっか」
「……うん」
絵里に言われ、私達は海を後にする。
一瞬、さっきの景色を思い出して、最後にもう一度振り向きそうになったが何とか思いとどまる。
だって振り返ったら、まだここにいたいときっと思ってしまうから。
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