第28話 海に行こう
「という訳で夏休みも残りわずかだが……課題は終えているんだろうな?」
「当たり前じゃないですか! そんな子どもじゃありませんよ私は!」
「ま、数日前に私が手伝ってあげたんだけどね~」
「あ、絵里! 内緒にしてって言ってたのに!」
時刻は夜の七時。カウンターでぷんぷん怒る神代と、全く気にもしていない百瀬のやり取りに呆れながらドリンクを用意する。
今日は神代はアルバイトの日ではないが、どうやら百瀬と遊びに行っていたらしく、その帰りにここに寄ったらしい。
百瀬もあの日から幾度か店に来るようになり、今ではすっかり常連さんだ。ほんと助かります。
「いや~それにしても来週から学校か~。あっという間だったなぁ~。あ、ありがとです~」
残念がる百瀬にいつものアイスコーヒーを渡す。
「絵里は何かやり残したことないの?」
「ん~夏らしいことは一通りしたし、コスプレのイベントにも行けたし、割と満足かな。真鳳は?」
「私もなんだかんだ楽しかったかなぁ~……あっ!」
何か思い出したように声を上げる神代。
「海! そう海だよ! 私、今年まだ海行ってない!」
「あ、そうなんだ。じゃあ、行く?」
「行く行く! 行くに決まってる!」
そう言うや否や、二人は予定を立てだす。
「熱中症にならないように気をつけろよー」
俺が軽く口を挟むと、それに対し、ちっちっちと人差し指を振る百瀬。
「いやいや~、湊先輩も連れていきますよ?」
「……は?」
「だって~ナンパとかされたらめんどくさいし~ねっ、真鳳?」
「ま、まぁ先輩が来たいのであれば……」
「何でそういうとこは奥手なのかな~」
「べ、別にそんなわけじゃ……」
そう言いながら神代はジュースをストローでぷくぷくし始めた。
「ま、そういう訳で真鳳も来て欲しいみたいなので来ますよね? ってか来ないとかありえないですよね~?」
「お、おう……」
笑顔で迫ってくる百瀬にたじろぐ。
いや、もうこれ行かないっていう選択無くされてるじゃん……。
だが、夏も残りわずか。来年は受験で忙しいだろうし……。自由に過ごせるのは実質今年が最後だ。
ま、行かないという選択肢はないな。高校生の夏休みなんて、楽しんだもん勝ちだ。あと、現役女子高生の水着姿が拝めるしね!
***
「「ひゃー! 海~!」」
声を揃え興奮する神代と百瀬。
二人はきゃっきゃっと叫びながら海の方へ駆けより、水をパシャパシャかけあう。
それにしても……水着っていいですねぇ……。
神代は純粋さを感じさせる白のビキニ。普段は露わになることのない胸の谷間や、太ももも引き締まっていて、胸元にちらりと見えるほくろも色っぽい。その……いつもとのギャップが凄い。
対して百瀬は……。うわっ、エッロぉ……っと思わず呟きそうなのを理性で止める。
コスプレ映えすることを思わせるようなセクシーなスタイルに、黒いホルダーネックの水着がさらに大人っぽさを助長させる。そんでもっておっぱいがでけえ!! ……目が……目がひきつけられる!!! なんだこれは! 謎の引力だ!
「何ジロジロ見てるんですか。ドスケベ先輩」
「おふ!」
思わず横から神代に声をかけられ我に戻る。いっ、いつの間に……。
「……あ~えっと……海が綺麗だな~って」
「今、絵里のことジロジロ見てましたよね。……先輩のエッチ」
「いや!? ちゃんと百瀬だけじゃなくて神代もジロジロ見てたから!」
「わっ、私のこともジロジロ見てたんですか!!」
神代は咄嗟に胸を隠す。
しまった! 思わず焦って言わなくても良いことを!
そんなやり取りをしていると、百瀬がこちらへ向かってきた。
「絵里! 先輩がいやらしい目で見てくる!」
「ん~? 私はコスプレの時にいやらしい目線を送られることには慣れてるから、別に気にしてないよ~」
「すげぇなコスプレ魂……」
「ま、そんなことより湊先輩、パラソル立てるのよろしくお願いしますね~」
百瀬が指さす方を見るとパラソルをレンタルできる店が。まぁ、流石にこの暑さじゃ影もないと熱中症になってしまう。それに荷物とかもまとめたい。
「それは良いがちょっとは手伝って……」
「「では!!」」
「おいこら」
俺のいう事に聞く耳も持たないで、二人はビーチボールを持って海の方へ走って行った。まったく人使いが荒い。
仕方ない、一人で始めるとするか……。
俺はバッグからイヤホンを取り出し、太陽がイケないやつをBGMにしながら作業を始めた。
***
パラソルを組み立て終えた後、俺は日陰の中でぼうっと二人が遊んでいるのを眺めていた。
しょっぱい塩の味。吹いてくる心地よい風。そして、揺れるおっぱい。最高だ。
「湊先輩~! パラソルお疲れ様です! こっちきてスイカ割りしませんか?」
あまりに俺が休憩していたので、退屈してると思ったのだろうか。
神代がテコテコ歩いてやって来た。
まぁ、退屈していたわけではないがせっかく海に来たのだ。こういう時は楽しむに限る。
「おう、やるやる」
「ですよねですよね!」
腰を上げ、軽く砂を払い、俺はへ向かった。
***
「潰れちゃうと身もふたもないから、叩く棒はこれにしよっか」
そう言いながら、百瀬はあらかじめ用意していた新聞紙を丸めて棒状にする。
今回のルールはこの棒でスイカにコツンと当てることが出来たら成功らしい。
「最初は誰からやる?」
「はいはいはい~! 私やりたい!」
百瀬のセリフに予想通り、神代がピョンピョンと跳ねる。そして、胸も揺れる。
まぁ、楽しそうで何より……っと俺は少し離れた場所に座った。
地面には貝殻なんかも落ちていてとても綺麗だ。記念に一つ持って帰るか。
「じゃあ、目隠しして、ここを中心に十回ぐるぐるしてくれる?」
「はーい」
百瀬から新聞紙を受け取ると、神代は地面に突き刺し、そこを中心にくるくる数回回る。
見てるこっちが目が回りそうだ。いーっち、にーいと二人の声に俺も合わせる。
「じゅ~う!! よし、それじゃあスイカ割り始め~!」
百瀬の掛け声を頼りにトコトコ覚束ない足取りで前に進む神代。
あちゃ~あれじゃあかなりスイカから離れちゃってるな……。
……ん? あれ? なんかこっち向かってきてない?
「そこ前~!」
百瀬が遠くから声を上げる。何か変だと思い、百瀬の表情を伺うとめちゃくちゃニヤニヤしている。おいおい、マジかよ。こいつ俺を殺る気じゃねえか!!
しかし、気づいた時にはもう遅い。神代は俺の目の前にまでやってきていた。
「そこ~! 思いっきり叩いちゃって~!」
「ちょ、ま、神代」
「ええええええええいいいいいいいいいいいい!!!!!」
思いっきりぶっ叩かれると思い、身を守ろうとする俺。
しかし、神代が新聞紙を振ろうとした瞬間、近くに転がっていたビーチボール躓き……。
「ってうわああああ!?」
「え!?」
バランスを崩した神代は俺に覆いかぶさる形でダイブ。
瞬間、もっちりとした胸の弾力が肌に伝わる。他にも女の子の体を直に感じ、唇も危うく触れそうになる。ってかこの状態色々やばい。理性が持たない!
「っいてて……ってあれ? 何で先輩って……ええ!?」
俺の体の上にのりながら、上半身を起こし目隠しを外す。
状況を理解したようで顔が真っ赤になっていた。
「か、神代……これはその……」
「み……湊先輩のスケベッ!」
「あぶぅッ!]
持っていた新聞で思いっきり叩かれる俺。
……これ俺、悪くなくない!?
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