第25話 トクベツ
「いやぁ~いいお湯だった……」
お風呂から上がった私は、自分の部屋へ戻ると倒れるようにベッドへダイブする。
あー疲れた。楽しかったけど。めちゃくちゃ疲れた。
目を閉じ少しの間、ウトウトしていると机に置いてあったスマホがピコンと鳴る。
『今日は楽しかった。しっかり休めよ』
相変わらずの短い文章。先輩からだ。
でも、先輩も楽しんでくれたようで良かった。思わず笑みがこぼれる。
『先輩もしっかり休んでくださいね~! それと、今日撮った写真送りますね』
スマホをスクロールし、写真フォルダを開く。
ノケモンのお面を買った時に撮った写真が画面に表示された。
写真をあまり撮られ慣れていないのだろう。先輩の笑顔はどこか不自然なのが面白い。
「ほんと今日楽しかったな……」
そりゃあ、打ち上げ花火をゆっくり見れなかったのは残念だったけれど……それでも楽しかった。……だって先輩と一日一緒にいれたから。浴衣着てる先輩もかっこよかったし……。
「……って、私……やっぱり先輩の事好きになっちゃってるな……」
今まで尊敬だとか憧れみたいな言葉で気づかないふりをしていた。いや、もちろん最初はそうだった。中学の時のこともあるし……。
何だろう……密かな推し? みたいな。
でも、それだけじゃない感情がどんどん私の中で大きくなってきている。
なんだかんだ言いながらもおせっかいなところとか、困っていたら放っておけないところとか。……あとは人を励ます時は自分のキャラとは違うような無理しちゃうところとか。……そういうところにふと惹かれてしまう。
そんなことを考えていると体が熱くなってきた。いや、お風呂から上がったのもあるからだとは思うけど。
「あっ、写真送らないとっ」
危うく忘れそうになりながら、しゅぽっという効果音と共に写真が送られたのを確認すると、私はぐでーっともう一度ベットに横たわった。
……でも、私は臆病だ。
思ってることも強がったり、調子に乗ったりして中々に言えないし……。
あぁ、自分ってめんどくさい女だなぁ……。
日々の努力のせいか容姿は良い方だと自分でも思うけれど、それだけだ。
私より綺麗で良い人なんかいっぱいいるし……。
きっと先輩も美人で清楚で大人しい人が好きなんだろうな。……むっつりスケベだし。むっつりスケベの人ってそういうタイプ好きそう。
「ああ~! もう何ウジウジしてるんだ私!」
近くにあったクッションを放り投げ、ふと寝返りを打つ。
机の方を見ると、さっき買ったオレンジジュースの缶が視界に入る。
何気なくその缶を手に取ると、さっき先輩が口をつけていたことを思い出した。
「湊先輩の……トクベツになりたいな」
しんと静まり返る部屋の中、私は缶を手に取り、そっと唇をつけた。
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