第22話 花火大会 2


「えっと……君……大丈夫~?」

「うっ……ひっぐ……ひっぐ」


 出来る範囲の優しそうな顔を作り、恐る恐る声をかけてみる。

 何とか泣くのは堪えているが、小さい子が一人、相当怖かっただろう。

 まずは、一度落ち着かせたいのだがさてどうしたものか……。俺、前に失敗してるからな……。

 すると神代がそそくさと泣きそうな子に近寄る。


「ノケノケノケ~!」


 一瞬、神代の意味不明な発言に呆気に取られてたが、よく見ると顔にさっきのノケモンのお面をかぶっていた。


「お姉さんのノケモンの物まねどうかなぁ?」

「え……似て……る。もう一回やって」


 そういえばノケモンって子ども向けのアニメだもんな……。それの声真似となれば興味も惹かれるだろう。凄いなノケモン。


「じゃあ次は違うモンスターを……」


 そう言ってまた違うパターンの物まねを披露する。たちまちその子どもは笑顔になっていた。やっぱり神代は子ども心を掴むのが上手い。


「君、名前はなんていうの? 私は真鳳! で、横の人は湊せんぱ……いや、湊くん」


 まぁ、確かに先輩が名前みたいに思っちまうかもしれないもんな。だがそれにしても湊くんって呼ばれるのは新鮮だな。

 神代と同い年だったらそう言われていたのだろうか。


「僕、まさと!」

「まさと君か~ 良い名前だね! よろしくね!」


 ありもしないIFルートの妄想を俺がしている内に自己紹介が終わりそうだ。

 俺も急いで「よろしくな」とだけ付け加えると、まさと君の首に何かかかっているのに気づいた。


「まさと君、首にぶら下げてるのは携帯じゃないかな?」

「うん。でも、ゲームしてて充電切れちゃったんだ」

「あっ、でも先輩、このタイプの携帯なら私の持ち充で充電出来るかもです」

「本当か!? 悪いが神代お願いできるか?」

「かしこまり~」


 そう言うと、巾着から持ち充を取り出す。差し込めるか少し緊張したが、難なく充電出来た。ビンゴだ。


「よし、これで親御さんに迷子案内所に連れていくって連絡でも入れたらあっちも安心するだろう」

「良かったね~」

「ね~」


 神代の言葉にまさと君は安心したようですっかり涙は乾いていた。

 その後、ただ充電が溜まるのを待つというのも味が無いので、すぐ横の屋台でベビーカステラの大を購入。

 近くの石段に座り、三人でパクパクと食べ時間を潰した。


「さて……そろそろ、大丈夫じゃないのか?」

「だって、まさと君大丈夫そう?」

「待っててねー」


 パカっとまさと君が携帯の電源を入れると、何件も着信が溜まっていた。こりゃ親御さんも相当心配していただろう。するとピコンと携帯が鳴った。


『まさとっ!』

「あ! ママ!」

『あんた今どこにいるの!? 携帯にも出ないで!』

「ご……ごめんなさい」


 怒られてしょぼくれたまさと君にさり気なく「少し携帯貸してくれる?」と伝えると、「んっ」と突き出されたので落とさないように受け取る。


「もしもし、まさと君のお母さまでしょうか? たまたま迷子になっているのを発見した者なんですが、今から迷子案内所に向かおうと思うので、迎えに来てあげてください」

『ほんとすいません……ありがとうございます!』


 その後、軽い事情説明と場所の確認を行い俺は電話を終えた。


『案内所に着くまでしっかりとお兄さんたちの言う事聞くのよ!』

「もう……分かった!」

『あっこら』


 まさと君はそう言いながら電話をプチっと切ってしまう。こりゃあ、またあとで怒られるぞ……。それはともかく話はまとまった。


「じゃあ行くとするか」

「そうですね」


 よっこらせと腰を上げ、また迷子にならない様に俺が左手を神代が右手をまさと君としっかり手をつなぐ。何だか親子みたいだな。……いや、何考えてんだ俺。

 

「じゃあ~まさと君探検隊~! レッツゴー!」

「ごー!」


 神代がどんと拳を突き出すと、まさと君も手をつないだ状態で真似をするように前に出す。

 こりゃコミュニケーションが上手い神代に感謝しないとな。

 そして、時たま残ったベビーカステラを食べながら、俺達はその場を後にしたのだった。

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