第20話 カフェあるある
……まだか、神代は!
土曜日の一二時。もうすぐ神代のシフトの時間だ。
正直気になりすぎて仕事が全然手に付かな……ということはない! めちゃくちゃはかどる! 気にしないでいようと思ってめちゃくちゃはかどる!
「お、湊。今日はやけに仕事に熱が入っているなぁ」
「……」
親父がドンドンと肩を叩く。しかし、ゾーンに入ってしまっているせいか、無言で皿を洗う俺。
「え? 無視? 反抗期ってやつ?」
「あ……いやすまん」
我に返り一言謝る。親父はこんなイカツイ姿だが割と繊細なのだ。
すると、そこへカララーンとベルが鳴る。
「先輩おつっす~! おじさんもお疲れ様で~す!」
「神代ちゃん、お疲れさん」
めちゃくちゃ笑顔の神代がルンルンスキップしながら店へと入ってきた。
あー大丈夫だわこれ。わかりやすいなっ! もう確定演出じゃん。
……でも、まぁ念のため聞いておくか。
「はいはい、お疲れお疲れ。ところで点数はどうだったんだ?」
「え~気になります~? 気になっちゃいます~?」
……うっざぁ~。
いやもう大丈夫だったんだろ早く言ってくれよ。
「仕方ないですね~じゃ、私とのゲームに勝ったら教えてあげましょう!」
「いや、いいから早く言」
「いいじゃないか! 楽しそうだな!」
俺の言葉を遮るように親父が答える。ノリノリだなおい。
「そんでどんなゲームなんだ?」
親父の質問に待ってましたと言わんばかりにふっふっふと焦らす神代。
「それはですね……カフェあるあるです!」
「「カフェあるある?」」
思わず声を揃えてしまう俺と親父。
「はい、カフェあるあるです。私と湊先輩がカフェで働いている時のあるあるを言っておじさんが三点満点で判断します。最後に合計の高い方が勝ちです」
「……まぁ、大喜利みたいなものか」
「いいじゃないか湊。楽しそうだぞ」
うん。仕事しろよあんたら。……まぁ、客いないから大丈夫だけれど。
いやそれ大丈夫じゃないじゃん。土曜の昼だぞ? ……ほんとこの店大丈夫そ?
そんなことはお構いなしな様子の二人。
「ちなみに先輩が負けたら罰ゲームとして『もし、恋人がいたら言われたいセリフ』を暴露してもらいます」
「は!?」
それ、俺勝っても負けても意味ねぇじゃん!
「じゃあ、私からいきますよー! ピコン!」
机をぺちんと叩く神代。
効果音、自分で言うんかい。
「可愛いスタッフがいがち!」
どや顔で答える神代。絶対前に(私みたいな)が入ってるなあれは。
「あぁ~確かに。神代ちゃんもうちの看板娘だもんなぁ」
「そんなことないですよ~う」
おい、嘘つけこら。顔に出てるぞ。
「よし、二ポイント」
「やったー!」
むむむ……これは負けてられんぞ。俺も答えなければ。
「ピコン、客が注文するドリンク予想しがち」
「あ~ついやっちゃいますね」
「俺、それよくやるが……外すと悔しいから一点」
「いや、それ親父の感想じゃん!」
……まぁでも一ポイントは確保できた。
「ピコン、オシャレなカフェでバイトをしていて誇らしい気持ちになる!」
「お、やっぱ神代ちゃんはこの良さが分かるのかい?」
「当たり前です! このセンスは並大抵の物じゃありません!」
「三点!」
うわ、こいつゴマすりに行きやがった! きたねぇ!
えっと……何か何か……!
「ピコン、メニューが多くて覚えるのが大変!」
「あ~確かに私も最初は大変でしたね……」
「でも、それって別にカフェに限らず他の飲食店でもそうじゃないか?」
くそっ親父め痛い所をついてきやがる!
「だ、だが有名なチェーン店とかだとトッピングとかカスタムとかもあるだろ? もう組合せなんて無限にあるぞ?」
「「た、確かに……」」
かなり的を絞った暴論だが、どうだ……?
「よし、じゃあ二点」
「よっしゃ」
俺が喜んでいるとむむむ……と悔しそうにしている神代が手を挙げた。
「ピコン、店長、渋くてかっこいい! 男らしい!」
「三点」
「早」
もう、こいつ勝ちに行く気満々じゃん。プライドというものがないのか! ってかもうこれあるあるなのか!?
これは俺も本気を出さなければ……。
***
「ハァハァ……先輩やりますねぇ……」
「お前もな……神代」
いや、だから何この展開、バトル漫画!?
それにしても、ピコンピコン言い過ぎてしんどいんだけれど。某巨大変身ヒーローじゃあるまいし……。
「さて、そろそろ出尽くしたようだな。それでは合計ポイントを発表する! 勝者は――」
その時だった。カラララーンとベルが鳴る。
「「「げ」」」
思わず三人とも声が出てしまったのはその客の数だ。軽く数えても十人はいる。
大戸の学生のようだが各々楽器を持っている。あの大きさはギターだろうか。っとなると……軽音部か。
そういえば今日近くのショッピングモールで高校の演奏があるとか言ってたな……。
「神代ちゃん、湊、仕事再開だ。二人だときついだろうから俺も手伝うよ」
「はい!」
「うっす」
そう言うや否や、親父はエプロンを着替えるために控室へと向かって行った。
「じゃあ、始めるか。神代も持ち場についてくれ」
しかし、ぽつんと動かない神代。どうしたのだろうか。
「おい、どうかし――」
近寄ろうとするといきなりこちらに向かい、俺の耳にそっと手を当てる。
「ピコン、……頼りになる先輩がいるっ」
息が耳にかかりゾッとしたのも束の間、振り向くと相変わらず調子よくウインクする神代。
ほんと勘弁してくれないか……冗談だとしてもそういうの心臓がいくつあっても持たないから……。
心臓の鼓動を落ち着けるように大きく息を吐いた後、調理のためキッチンへと戻っていく。
さて、今日も頑張りますか。
……あれ、なんか忘れているような? いや、気のせいだな。
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