第18話 勉強会

「ほんと真面目にしないと帰るぞ」

「ちぇ」

「何か言ったか?」

「言ってません!」


 まったく、誰のためにここにいると思ってるのか……。

 口をとがらせる神代を横目にカバンからテスト範囲を取り出す。


「本題に入る……前に一応確認だが、提出課題ぐらいはしているよな?」

「え……ええ! ちゃっちゃんとやりましたよ! 答え見ながらですが」


 うじうじと答える神代。

 まぁ、この学校に受かるぐらいだ。最低限のことはしているのだろう。


「正直、朝までに何とかするのはかなり厳しいが……そこらへんは覚悟しろよ?」

「へい! 隊長!」

「よし……じゃあ……やっていくか」


 まず、大戸高校の大体のテストは五割が基本問題。

 三割が標準問題。残り二割が応用問題で占められている。

 つまり、基礎を満点近く取れば赤点は回避できる。


「ここの問題は(1)の答えを使って……」

「なるほど……」


 流石そこそこ偏差値の高い学校を合格しているだけあって、集中力と理解力は思っていたより高いようだ。

 最初はペンが進まないことも多かったが、少し教えると、次第にすらすらと動くようになっていた。


「……よし、正解だ」

「わーい! やっほ~! やっぱり私出来る子だわ~!」

「じゃあ、最初からそうしてくれよ……」


 最初はどうなるかと思っていたが、丸の数が増えてきているあたり、何とか行けそうだ。


「そういえば……先輩、そろそろお風呂入ります?」

「……あ」


 そういえば親父との会話を遮断するのに夢中で、着替えはあれどシャワーを浴びて来なかったな……。

 確かにちょっと汗は気になるが……。


「いや、それはさすがに……」

「ここまで来て何遠慮してるんですか。私だって汗臭い先輩よりもシャンプーの良い香りのする先輩に教えてもらいたいです」


 臭いって……男子はそういうたぐいの言葉にメンタルやられるんだが。


「……じゃ、シャワーだけ借ります。あざす」

「いえいえ~」


 ここは素直に折れることし、借りるか。

 ……え、俺って臭うの?


***


 シャワーを済まし寝間着に着替え、礼を言うと、次に神代がお風呂の準備を始めた。

 バスタオルを抱えながらじとーっとこちらを見る神代。


「あの……エッチな想像しないでくださいね」

「しないしない。はよ行ってこい」

「……いや、それはそうで……」

「なんか言ったか?」

「先輩のアホっ!」

「は!?」


 いきなり怒られ驚いている俺なんぞ知らんぷりで神代はその場を後にした。

 ほんとまったくそんなこと……。


 ……するけど!? え? めちゃくちゃするけど? 

 いや、無理だろ。流石に想像はしてしまうだろ。男子高校生の想像力なめんなよ。

 だって一部屋またいで裸だぜ? 無理無理無理。

 

 はい、ストーップ!!


 思わず俺の中の理性君がブレーキを掛ける。良くやった理性君。


 ……ってほんと危ないわ。このままいくとマジで理性が止められなくなる。

 そっとカバンから携帯を取り出し、イヤホンをつける。

 

 ……般若心経でも聞いとくか。


***


「いや~いいお湯でした」

「……心の妨げを無くす……。妨げが無ければ恐れもない……ブツブツ……」

「え、先輩どうしちゃったんですか?」


 気づくとピンク色の絹のパジャマに着替えた神代が。

 普段の服装ではあまり目立たない胸の形がしっかりと現れ、少しまだ濡れている髪は妖美な雰囲気を漂わせる。

 あの……その何というか一言で言うとエロい。

 ……いかんいかん、心の妨げを払うんだ俺!


「すべては幻……私というものは存在しない……」

「あの……先輩、病んでるんですか? 私で良ければ相談になりますよ!?」

「いや、大丈夫だ……」


 ごほんと咳ばらいをし、時刻を確認する。

 一二時半、あともう少し頑張りたいところだな。


「もう少し……頑張れるか?」

「もちろんです! 後半戦いっちゃいましょう!」

「よし、その意気だ」

「ふっふっふ……。先に寝た方は寝顔撮られても文句なしですよ!」

「いや、それこっちのセリフなんだけれど」

「私がそんなアホみたいにすぐスヤスヤ寝るとでも!? 意地でも起きて先輩の寝顔を撮ってやります!」


 うん。その努力を勉強に向けてくれ。


 呆れながらノートを用意していると、神代は茶色の眼鏡をかけようとしていた。


「なんだ。眼鏡かけてるのな」

「外ではコンタクトですけどね。さっきお風呂入るとき外したので……あっ、似合います?」

「印象は変わるな」

「嘘でも似合うって言えば良いのに」

「似合う似合う」

「むぅ~」


 ぷりぷりと頬を膨らます神代。

 ……ん? それにしても今の神代を見ていると何か思い出すような……。


「何ジロジロ見てるんですか? 早く進めますよ」

「お、おう」


 いや、気のせいだろう。きっと。


***


 チクタクと

 時計が二時を回ったころだろうか。


「……んでここはこうだから……」

「……すぅ」


 気づくと俺の肩に神代の横顔が来ていた。

 寝落ちしてしまったようだ。

 おいおい、まじかよ。さっきあんなに寝落ちしないとか言ってたくせに。

 フラグ回収職人だな……。

 

 そして、困ったことに……。


 ドキドキするんだよ!!!!!!!!

 

 まず、この距離! 近すぎる! もう息が当たりそうな距離だ!

 そして、なんだ? シャンプーのいい匂いがふんわりと香ってくるんだが!

 いつもは騒がしいやつだが……おい! 寝顔クッソ可愛いな! ちくしょう!

 

「……ったく」


 俺だって一応男だぞ? 不用心にもほどがある。

 

「お、おい起きろー」

「ん……湊しぇんぱい……」

「しっかりしろ。こんなところで寝ると風邪ひくぞー」


 ほっぺたをつつくが反応なし……。

 ……それにしても柔らかっ。


 まぁ、今日はここまでだろうな。無理をして明日力を出せないのが一番怖い。


「よっこらせと」


 神代を起こさないように抱き上げ横のベットに横たわらせ、布団をかける。

 やれやれ、世話のかかる後輩だ。


「先輩と……はなび……楽……しみ……れ……すぅ」


 ぶつぶつと寝言を呟く神代。

 全く……。それなら、明日しっかり点数取ってくれよ。


 俺も割と……いや、まぁ……その……楽しみにしているんだからな。






☆☆☆

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