第17話 夏のせい

「いや、なんで!? 家はやばいだろ!?」

「大丈夫です! 今日はパパもママも旅行中でいませんよ!」

「いや、それがやばいって言ってんの! 価値観バグってんの!?」

「もう……うるさいですね! 一番それが楽じゃないですか! それに……私だって誰でもホイホイ家にあげたりしませんよ! ……先輩だからいいんです」


 上目づかいでじもじと言葉を紡ぐ神代。

 なんだよそれ……ずるくね?

 まぁ、確かにテレビ電話よりは断然そっちのほうが楽だが……。

 いつもこうだなおい!


「……あぁ、もう分かったよ。ダッシュで用意するから先のコンビニで待っててくれ」

「さっすが先輩! じゃあ、またあとで!」


 言うや否や、タイムカードを押し、パタパタとその場を後にしていった。

 ……なんかいつも俺上手く言いくるめられている気がしないか?

 やれやれとため息を吐きながら、休憩室を上がり部屋に戻る。

 すると、親父がエプロンをかけているところだった。


「今日友達のところ泊ってくるから」


 出来るだけ何気ない感じを出しながら報告する。

 しかし、流石父。何か異変に感づいたようだ。


「え、お前友達いたの」

「い、いるわ!」

「……それほんとに友達か? 長い間会っていなかったのにファミレスとかに呼び出されたり……とかじゃないか?」

「いや、マルチ商法の勧誘じゃねぇから!」


 親父の発言にツッコミを入れながらも、半場強制的に会話を切り上げ、向かいのコンビニへ向かって走り出す。

 我ながら中々のことをしているなぁ……と思う。

 本当に羽目を外し過ぎだ。


 だが、これもきっと夏のせい。そう、夏のせいなのだろう。……なんて。

 

***

 

「おじゃましまーす」

「どうぞどうぞ」


 神代の家へ着くと、俺は彼女の部屋に案内された。

 白を基調としたシンプルな部屋だが、所々に置かれている雑貨が女子らしい。

 俺達は背の低いテーブルに並ぶようにして座った。

 ……さて、始めるかと、考えていると横でうずうずしている子が。


「いえーい!! 今日は朝まで寝ないぞー!」


 神代はうきうきと明るい声ではしゃぐ。いや、お泊り会のテンションじゃんそれ。


 テーブルにはさっきのコンビニで買ったお菓子やジュース。いや、だからお泊り会のテンションじゃんそれ。


「……さて勉強の前に恋バナでもしますか!」


 パチンと手を叩く神代。

 いやだからそれ、お泊り会のテンションンンン!!!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る