第11話 恋の幕開け 中編
桜の花が今か今かと咲くその日を待ちわびている頃、校舎の前には大勢の人が集まっていた。
「え……待って、番号ある……」
間違いではないだろうかと思い、手を震わせながら、もう一度受験票と一つ一つ数字を確認していく。
……ある!
「あるじゃん! 私の番号あるじゃん!」
思わず二、三回ぴょんぴょんとその場で飛び、よっしゃぁあ! と軽くガッツポーズをする。
やったやったやった!!!!! ま! 受かるってわかってたけどね~!
だって私なんだもん! え? 模試で泣いてただって?
いや~ナイナイナイナイ、そんなのありえナイジェリアだわ~!!
さっきまでの緊張が解け、安心感やら喜びやらで感情がぐちゃぐちゃのミックスジュースみたいになってしまい、一人調子に乗る私。
……あ、いけない。お母さんに合格したって言わないと。
合格発表は一人で見たいという私の希望をお母さんは受け入れてくれたのだった。
私はカバンから電話を取り出し、合格したことをお母さんに伝える。
お母さんは電話越しでも分かるくらい喜んでくれていて、その声を聞くと合格してよかったなぁと再び思った。
「じゃ、また昼頃ね」
今日の午後から親子で合格者説明会があり、私達はお昼にまたこの校門で会うことになった。
現在、十時を少し過ぎた頃。少し時間がある。
「……あ、あのカフェ行ってみようかな」
私は秋ごろに一度行ったカフェを思い出した。私が受験を諦めたくないと思ったきっかけの場所だ。
あの後、あそこであったことを笑い話にできるように、次行くときは合格した時と自分の中で決めていたのだ。
あの人……今いるかな。
一度会っただけだから、あっちは多分忘れてるかもだけど、私はあの人に助けられた。折れそうになっていた心を奮い立たせてくれた。
……もう一度ちゃんとお礼をしないと。
そう思い、私は大戸高校を後にした。
***
「いらっしゃ~~い」
店内に入ると、サングラスのおじさんが声をかけてきた。あの人のお父さんだ。
なんか昔の映画から出てきたような人だ。
「ひ、一人……」
「んじゃあ、あの席どうぞ」
私が案内されたのは前来た時と同じ席だった。
メニューをパラパラと捲くった後、前来た時飲んだオリジナルコーヒー、それと少し小腹も空いたのでサンドイッチを注文した。
注文を待っている間、店内を見回したが、あの人の姿はなかった。キッチンはさっきのおじさんだけっぽいし……。
手持ち沙汰だったので、少し店内の雑貨を眺め待っていると、おじさんが注文したものを持ってきてくれた。
「へい、お待ち」
「あ、ありがとうございます」
お寿司みたいな感じで渡され少々戸惑ったが、テーブルが一気に華やかになる。
まずはコーヒーを……と思ったが、いつかの時見たく、眼鏡が曇ってしまった。
同じミスをしてしまい、思わず一人吹き出す。
……高校生になったらコンタクトに変えてみようかな。……うん、そうしよう。また笑われちゃうもん。
眼鏡を机に置き、そっとカップに口をつける。
懐かしい思い出と共に、優しい味わいが舌に伝わった。
やっぱり美味しいな。思わず口がにやけちゃう。
サンドイッチもコーヒーとよく合い、もう何個でもいける。ポテチみたいにいけちゃう。
「お嬢ちゃん、美味しそうに食べてくれるね」
はっはっはと笑いながら、ダンディなおじさんが声をかけてきた。
何だか少し恥ずかしい。
「とても美味しいです」
「それは嬉しいこと言ってくれるねぇ。おじさんサービスしちゃおうか?」
「いや、これ以上食べたら太っちゃうので……」
めちゃくちゃ食べたい気持ちを何とか制御する。
……あ、そういえば。
「あの……ここで働いてる湊さんって……?」
「あ~湊ね。あいつ今、ちょっと用事で席外してるなぁ」
「……そうなんですか。分かりました」
「タイミングが悪くてすまんなぁ……。お嬢ちゃんは湊の友達かい?」
「いや、友達っていうわけでは……」
「もしや彼女!?」
「……ち、違います!」
思わず変な声が出そうになってしまった。
「おおっと、すまんすまん。……それで用があるんだろう? もしあれなら俺から湊に伝えておいてもいいぜ?」
おじさんはそう言ってくれたが、こういうのは直接言わないと意味がないと思う。
「……いや、大丈夫です。ありがとうございます」
「そうかい。じゃ、ゆっくりしていってくれ」
おじさんがキッチンの方へ向かって行くのを見ていると、一枚の紙が目に入った。
『アルバイト募集中!!』
アルバイト……。アルバイトかぁ。
考えたことなかったけれど、そうか。私も高校生になるからアルバイトができるのか。
丁度ここは学校からそこそこ近いし、店の人も良い人っぽいから働いてみるのは割とありかも……。
賄いがケーキというのも魅力的だ。
それにあの人には勝手にだけれど、一応恩みたいなのも感じてるし……。
……よし、決めた。
「あ、あのダンディなおじさん!」
「はい、ダンディなおじさんです」
キッチンへと向かうおじさんを呼び止める。
「えっと……そのアルバイト募集って今もしていますか?」
「ああ、してるけれど……お嬢ちゃんもしかして?」
その言葉に思わず席を立つ。
「はい! 私ここで働きたいです!」
***
自分の部屋で一人うーっと
……バイトの履歴書ってどんな風に書いたらいいんだろうか。
あの後、まだ三月で中学を卒業したばかりの私はバイトができないという事で、四月になってから面接ということになったのだ。
そして、その日が明日にと迫ってきているのに、さっきから数十分はペンが進まないでいた。
あ~もう分らん! PRとかちょっとはゆるく書いていいものなの? 思わず横のベッドにダイブし、手足をバタバタさせる。
……いや、もうここは攻めだ! 私らしさ全開でいこう!
仕切り直しと言わんばかりに机へと戻り、再びペンを握った。
まずは証明写真! 何パターンか撮ったけれど、これはとびっきり自信のある笑顔でピースしてるやつ! 別に入試とか証明写真とかの硬いやつじゃないし! いけるでしょ!
趣味……はそういえば最近占いにハマってるから占い……っと。
特技……あ、私何気に絵書くの得意だな。え、意外にこれ重要じゃない? メニューとか書くのにイラストとか役立ちそう。
自己PRはとにかく一生懸命頑張ります!! っと。
あれ、なんかいける気してきた! いけるじゃん私! やっぱ私だもんなぁ~!
そうして、無事履歴書を書きあげる。
いや~頑張った頑張った。
そうだ、休憩に前に買ったノケモンカードあーけよ。
……お、スーパーノケモン! 可愛い!
レアカードも当たったことだし、なんかいける気してきた!!
よーし、面接頑張るぞ~!
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