第8話 夏の訪れ
「私ハイパー・メガ・スペシャル・パフェケーキで~」
「あー私も~」
今日は休日とはいえ、店内はいつになくお客さんが入っている。こんなに忙しいのは久しぶり……いや初めてだ。
理由は先日、神代が考案したパフェケーキがSNSで小バズりし、地元の高校生を中心に連日お客さんが集まっていた。
ちなみに名前は神代が考案した。……俺と同じくらい感性死んでない? 気のせい?
「先輩! ハイパー(以下略)二つです!」
「もう略しちゃってるし……」
すると、横にいたダンディなサングラスをかけた男性が口を開いた。
「それにしても、こんなに女姓のお客さんをゲットできるとは……流石神代ちゃん!」
俺の親父である。
普段は俺達、高校生の働けない夜から閉店までを担当していることが多いが、今回は人手が必要なこともあって、急遽ヘルプに来てもらった。
ちなみに昼間はフリーのエンジニアとして、パソコンと睨めっこしている。
「いやいや、そんなこと……少しはありますかねぇ~!」
神代はテヘへ~と自分の頭を撫でた。かなり嬉しいようだ。
ふと時計に目をやると丁度三時ごろ。カフェが一番忙しくなる時間帯だ。
これは飲食店あるあるなのかは分からないが、忙しすぎると逆に仕事が楽しく感じることがある。
それは他の二人も同じなようで、まだまだぴんぴんしている。
さて、ここからが本番だ。
「それじゃあ、久々のラッシュタイム頑張りますか!」
「「おー!」」
俺の言葉に二人が威勢よく続いた。
***
季節の変わり目というのは日常のささいなことで気づくものだ。
自動販売機の「あったか~い」が「つめた~い」に変わったとか、気になるあの子が冬服から夏の制服に変わった時とか。
「そういえば、来週の花火大会どうする?」
俺の場合はお客さんのさり気ない会話だった。
時刻は八時過ぎ、お客さんの出入りもだいぶ落ち着いた頃、テーブルに置かれた食器を片づけていると、反対の席に座っていた学生と思われる女子二人組の会話が耳に入ってきた。
いつの間にか梅雨は終わり、季節は夏に入ろうとしているのだなぁ……と思いながら、俺は空になったお皿を一枚、二枚と丁寧にトレイに乗せた。
***
「……ううっ、先輩、私腰がやばいです。仕事中……人気メニューを生み出してしまった自分を少し恨んでしまいました……」
夜の街灯の中、重い足を引きずりながら自転車を押す俺達。
今日は普段より忙しかったこともあって、上がる時間が少し遅くなってしまった。
流石に俺も遅い時間帯にこんなヨロヨロで今にもぶっ倒れそうな女の子を一人で返すほど野暮ではない。
「いやはや、俺もこんなに忙しく働いたのは初めてだ。ご苦労さん」
「……もう私一歩も歩けません……。先輩……おんぶー」
「瞬間、ブラジルまでつっきちまうな」
「そんな……重くないし。先輩のばか」
ポカっと肩を叩かれたが、力は全く感じられない。相当疲れているのだろう。
その後、お互い疲労であまり会話はなく、キコキコと自転車を押す音だけが聞こえる時間が続いた。
再び会話が始まったのは、あと少しで神代の家に着くという頃だった。
「……私、頑張りましたよね。今日」
「ああ、頑張ったよ。二カ月にしては上出来だ」
「……そっか。じゃあ……」
そう言うと途端に足を止めた。そして、俺の袖をくいっと摘まむ。
「……その……ご褒美……欲しいです」
上目遣いでお願いをしてくる神代。
思わずドキリと胸が鳴り、体温が上がるのを感じる。
「先輩……来週の花火……、一緒に行きませんか?」
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