第7話 新作メニュー

「ん~まぁ、こんなもんか? いや、ここはもっと今の流行りを……」

「何してるんですか? 先輩」


 店のカウンターであれでもない、これでもないと頭を抱えているところに神代が声をかけてきた。

 いつもと違い、今日は髪を後ろに括っている。青色のシュシュが可愛らしい。

 

「いや、もうすぐ新作のケーキを発表しようと思うんだが、どうにもいいアイデアが思いつかなくてな……」

「え、先輩ってバイトなのにそんな権力持ってるんですか?」

「バイトって言っても息子だからな……。新作メニューは俺と親父が交互にアイデア出し合ってるんだよ。そんで、今回は俺の番」

「へぇ~そうなんですね。私、前のチョコレートのケーキも結構好きでしたよ」


 一カ月前のチョコレートケーキは神代の言う通り中々評判が良かった。しかし、あれは親父の案だ。俺も負けていられない。


「……そうだ。今、客いないし一緒に考えてくれない?」


 こういうのは三人寄れば文殊のなんやらだ。……一人少ねぇな。


「ふっふっふ。仕方ないですね~。先輩がそこまで言うのなら私が一肌脱ぎましょう!」

「おお、助かるわ。んじゃ、客来るまで考えるか。ちょいとコーヒー淹れてくるからそこ座っていてくれ」

「かっしこまり~!」


 こうして第一回新作ケーキ会議が始まった。

 決してさぼりではない。これも仕事だ。


***


 淹れたてのアメリカンコーヒーを口に運んでいると、神代がピシッと手を挙げた。

 何か閃いたらしい。


「……それじゃあ、まずは私の意見ですが……今回は趣向を変えてフルーツ系のケーキなんてどうでしょう?」

「お! いいな! あ、でも前々回イチゴのケーキだったからな……」

「甘いですよ先輩。」

「なっ……なんだと!」


 にやりとほほ笑む神代。


「今回はイチゴだけじゃありません。バナナ、キウイ、パイナップル……そう! フルーツミックスです!!」

「フ……フルーツミックスだと!?」


 何という禁断の技だ! でも、満足感は計り知れない!


「良いじゃないか! そうだな……じゃあ名前はスーパーケーキ・デラックスなんてどうだ!?」

「いや、それはダサいです先輩」

「……お、おう。そうか……」


 え、なんか今いけそうな雰囲気だったのに……。


「それに今回はパフェと合体させるの何てどうでしょう!」

「パ……パフェと合体だって!?」


 男の子は合体という言葉に弱い! だってなんかワクワクするんだもの!

 特戦隊のロボットとか! 関係ないけど、あれ絶対一人で操作した方が良いよね! 五人で操作することによって無駄に難易度上げてるよね!

 しかし……それにしてもそんな悪魔みたいなメニューを出してしまっても良いのか……。


「おっと、先輩。何をビビっているのです! 新メニューには目新しさが必要なんです! それに女子受けも絶対良いです! 映えます!」

「そ、そうか……! それもそうだな! それじゃあ、名前はハイパーウルトラパフェ・コンビネーションなんて……」

「だからダサいですって」

「……はい」


 なんか俺に対して厳しくない……? ダサいの? ……ダサいな。


「最後にとどめです! さらにプリンを追加!」

「はっ……犯罪的すぎるっ!」

「そして、これを絵に描いたものがこちらになります」


 するりとスケッチブックを取り出す神代。

 クッキング番組かよ。

 しかし、流石絵が得意なだけある。かなりのイメージを掴むことができた。


「……っとまぁ、さっき待ってる間に考えたんですけれど……。かなり私の欲望を詰め込んじゃいましたね。ちょっとふざけすぎちゃいました。真面目に考えますね」

「……い」

「ん? 先輩何て?」

「いいぞ! これ! 今回はこれで行こう! かなりぶっ飛んでるけれどそこが良い!」

「マジですか先輩! やったー!」

「ああ! マジだ! 本気と書いてマジだ! そうだな……名前はスーパーアルティメット……」

「だからダサいって」


 ……ぐすん。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る