第4話 あざとかわいい

 キンコンと終わりを告げるチャイムが夢から覚める合図だ。

 だるい体を起こすと、周りの生徒はお弁当の準備をしていたり、仲の良い友達同士で購買へと向かうグループも見られる。

 ふあぁと欠伸をしていると、ピロリンと通知が鳴った。


『先輩! 可愛い後輩とのお食事タイムですよ~~! 食堂で待っているので早く来てくださいね~~(ダッシュで)』

『り』


 一文字の平仮名だけを打ち込み、教室を出て食堂へと向かう。

 今思うと了解を『り』の一文字だけに訳す若者の文化って怖いよな。

 もはや狂喜の沙汰じゃない? コミュニケーションのギリギリのライン攻めすぎだろ。若者が電話苦手になるのもわかるわ。まぁ、便利だから使うんだが。


「あ、せんぱーい! 遅いですよ~~!」


 なんてことを考えながら歩いていると、いつの間にか食堂に着いていた。

 声と同時にパタパタと手を振っている神代が目に入る。

 もちろん制服姿だ。


 まぁ、場所が学校なのだから当たり前なのだけれど、バイトでの姿を見ることが多い俺にとっては中々ない光景で目新しい。

 やっぱり制服を着ている神代を見ると、彼女も女子高生なのだなと実感する。……何それ、お父さん?


「それと何ですかこの返信!? 可愛い後輩に『り』って! 『り』って! もはや狂喜の沙汰ですよ! コミュニケーションのギリギリラインを攻めすぎです!」

「……エスパーなの?」

「は?」

「いや、何でもない」


 そう言いながら俺は神代の向かいの席に座る。


「とっにっかっく! ちゃんとコミュニケーション取らないと先輩友達いなくなり……あ~いないんでしたっけ……」

「ふふっ……甘いな。知り合いはたくさんいるぞ」

「悲しい報告をそんなに堂々としないでください……。私が恥ずかしいです」


 やれやれとため息を吐く神代。


「……なんか先輩と話してたらお腹空いてきました。ほんと無駄なカロリー使わせないでください。ってかもう早くお昼ご飯奢ってください」

「いや、いいけどドストレートすぎない?」


 なんだこいつ。遠慮というものを知らんのか。

 やれやれ、それにしても昨日の俺は本当に甘かった。

 まるで……そう例えるなら……あれだ、ブラックチョコレートのように。……いや、あれあまり甘くないな。


 まぁ、神代には昨日のバイトの借りもあるし、少しは先輩らしいこともしないとな。


「ま、昨日の礼だ。何でも好きな一品ご馳走するわ。唐揚げ定食でもハンバーグ定食でもなんでもいいぞ」

「やったー! 先輩最高! よっ! 三枚目!」

「いやそこは二枚目だろ普通」

「てへっ」


 頭にこつんと手をやりながら、ペロっと舌を出す神代。

 自分の強みを最大限に引き出すようなその仕草はもはや職人技だ。

 ……ほんとこの子ったらあざと可愛いんだから。

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