第5話 指切りげんまん

「お、もうこんな時間か。そろそろ教室に戻らないとな」


 お互い食後のアイスをちびちび食べながら雑談していると、予鈴のチャイムが鳴った。

 次第に生徒も席を立っていく。


「そうですね。昼ご飯ごちになりました!」


 あの後、迷いに迷ったがお互い唐揚げ定食を注文した。普通に美味かったのでリピート確定だ。


「構わん構わん」

「……何気に先輩とこうして学校でお喋りするの初めてだったんで、楽しかったです。えへへ」


 思えばそうだな。

 学年が違うこともあって、校舎ではお互い話す機会はあまりない。


「あっ……あの、またお昼ご飯食べませんか?」

「え?」


 また奢らされるのかよ……。

 だがしかし! もうその手には乗ら……、


「今度はその……私が作ってきます! ……いいですよね?」


 神代の言葉は意外なものだった。


「え、神代って料理出来るの」

「バ……バカにしないでください! 結構自信あったりするんですよ!」


 むぅっとほっぺを膨らます神代。

 可愛いかよ。


「お、おう……それならご馳走になろうかしら」

「ふふっ先輩、約束ですよ! 破ったらハリセンボンで殴りますね!」

「いや、そこは飲ませろよ……。どっちも嫌だけど」

「それじゃ! 先輩また!」


 そう言うと、すたこらさっさと走って行ってしまった。

 ほんと忙しい奴だ。よくご飯食べた後に走れるものだ。

 っと、ふと携帯で時間割りを確認する。


「……げ。次移動教室か……」


 ……走るか。


***


  カツンカツン


 カタンカタン


 チョークの音が鳴る度に眠気が強くなる。

 どうして昼ご飯を食べた後の授業はこんなにも眠いのだろうか。


 カツンカツン


 カタンカタン


 暇だったのでぼーっと窓の外を眺めていると、向かいの校舎の一階で授業を受けている神代が見えた。


 普段、一年生との校舎は離れているが、移動教室であるこの教室は一年生の横に位置している。


 神代も視線に気づいたのかこちらを向く。

 すると、なんかめちゃくちゃパタパタ手振ってきた。しかし、瞬間先生に当てられたのか教科書を慌てて捲る。……アホだなあいつ。

 思わずクスっと笑ってしまう。

 

 カツンカツン


 カタンカタン


 時計を見るとまだ授業が始まって十分しか経っていない。まだまだ長引きそうだ。

 かといって、眠ってしまっては、また神代にいじられるだろうな……。


「そういえばあいつが来てもう二カ月……か」

 

 ……ほんと最初から騒がしい奴だったよなぁ。

 欠伸を噛み殺しながら、時間つぶしに俺は彼女が初めてカフェに来た時のことを思い出していた。


***


「さて……今日も頑張るか……と」


 学校が終わった後で少々疲れてはいるが、軽く伸びをし、あと少し自分の体を騙す。

 軽く店内を掃除。その後洒落たBGMを流し、今日も開店だ。


 まぁ、忙しくなるのは五時くらいだからしばらくは暇だろうけれど。

 ……と予想していたが、その予想は外れ、入口のベルが鳴った。

 誰かが来た合図だ。


「いらっしゃいませー」


 いつもの調子で言いながら、視界をドアの方へ向けると、客層としては珍しい黒髪の少女が一人。


「あっ……あの!! バッ……えっと……アルバイトに応募させていただいた神代かみしろです! 今日はその……来ました! 面接に!」


 ……ほう。今日の朝、確か親父がそんなこと言っていたような……。

 親父は今出かけてていないし……。面接は……まぁ、俺でもいいか。うん、いいや。いいってことにしておこう。色々めんどくさいし。


「じゃあ、神代さん軽く面接するからこっち来てもらえる? あっ、履歴書持ってきた?」


 俺はカウンターの奥にある客席へと誘導する。


「はーい……ってうわぁぁぁ!!!!」


 履歴書を鞄から取り出そうとしながら歩いていたせいか、ド派手にずっこける少女。


 ……大丈夫か、この子。


 そう、すべてはここから始まったのだ。


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