第3話 思わせぶりなセリフ
「ありがとうございました~」
色々あったが、最後のお客さんを見送るとどっと肩の荷が下りた。
ほんとマジで変なクレーマーじゃなくて良かった……。
ふと横を見ると、良い獲物を見つけたと言わんばかりにクスクス笑う神代。
「ぷぷっ……ほんと先輩……最高。普段仏頂面なのに無理するから赤ちゃん泣いちゃうんですよ。逆にいける! と思ってたのがウケる~。あのやっちまった!って顔凄かったですよ。写真撮っとけば良かった。……ぷぷ」
「あー、もうテンパってたの! 何とかなる……いや、何とかしないとって思ったんだよ。神代もそういう時あるだろ?」
「え? っでも先輩の髪、今日全然チリチリじゃじゃないです」
「『天パ』ってたじゃねぇよ!」
相変わらず子供のようにケラケラと笑う神代。
ああ、俺の先輩としての威厳がどんどん失われていく……。いや、元々威厳とかないけれど。
「……でも、正直助かった。もし、俺一人だったらだめだったな。きっと。神代、ありがとう」
「先輩……いっ、いやな、何ですか急に! 仕方なくです! 赤ちゃんがあのままだったらかわいそうだと思ったからやったんです! せ、先輩のためなんかじゃありません!」
気持ちは言葉にしないと伝わらないっていうしな。
ここは素直に感謝しておこう。……よく考えたら原因も神代な気もしないことはないが。
腕を組みながら、プイっとそっぽを向く神代。
完全に照れてるご様子だ。
さっきまでの余裕はどこに行ったのか……。でも、こいつこういうところは可愛いんだよな……。
「……じゃ、じゃあその……、一緒に明日お昼食べませんか! 先輩……」
「え?」
神代がバイトの面接に来た時、親父が留守をしていたので代わりに俺が面接の担当になった。
その時に判明したことだが、神代と俺は同じ高校に通っているのだ。
つまりここのみならず、学校でも先輩と後輩という関係だ。
ってかそんなことより!!
え? まじで? 二人っきりでご飯? ってか、これ割とその……期待しちゃっていいやつ?
いつもの雰囲気とは違い、神代もどこか照れたように、体をもじもじとさせている。
そうだよ! これだよ! 欲しかったのは! 可愛い後輩が甘えてくる! このシチュエーションを待ちわびていたんだ!
おっと、いかんいかん。ここはあくまでもクールにいかなくては。だって俺は先輩なのだから。
「しっ仕方ねぇなぁ……そんなにいうなら……」
「……の奢りで」
にやりと言葉を足す神代。
……ほんとこいつ、こういうとこ可愛くねぇわ。
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