お目出たき人
嫌いな人間に好かれるって毒飲まされてるような気持になるよね。
殊男性諸君には思い当たる節があるだろうが、「あいつ俺の事好きなんじゃね?」と錯覚する現象がある。しかしその感覚はおうおうにして大外れであり、後で思い出したくない自分史の一ページに加えられることがうけあい。妄想と空想にからなる空回りというのは自己否定の要因として大きなウェイトを占めるような気がする。
しかしやった側は悶々と悩むだけでいいが、やられた方堪ったもんじゃない。ひたすら嫌悪に晒され、時に思い出し泡肌を立てねばならないのだ。不快な記憶が生涯ついて回るなど同情を禁じえない。人生の中に泥が混じり輝かしい一生を傷ものにしてしまったとあれば、その罪の深さは測り切れるものでないだろう。謝っても許されるものではない。当人にその自覚がないのが恋心の恐ろしいところ。恋慕というのは暴走しがちである。
そんな自分勝手な妄想を描いた短編が武者小路実篤のお目出たき人である。
お目出たき人
主人公は好意を寄せている女を遊びに誘ったりして一緒に遊ぶ。
きっと彼女も自分を好きに違いないと信じて疑わず何度か求婚するも叶わず、それでも諦めず妄想を続け、女を理想の妻として脳内に形作っていく。しかし、その女に縁談があってあ……
終始自己完結に徹しられた主人公の独白により構成されるこの物語。読んでいて共感と自戒の念に苛まれる。
ターゲットにしている女は別に主人公の事についてなんとも思ってない。ただの人であり。その辺にいる通行人と変わらないような認識。だけど主人公は女に運命を感じ、自らの理想として位置付けてしまっている。この認識の乖離と一方的な恋慕が実に身につまされて、面白い反面、笑えない感情が湧く。読めばかつて自身が想っていた異性やその人に対する過去の言動などが顧みられ思わず叫びが出る人間も少なくはないのではないだろうか。
同作において登場する女は「あぁそんな事もあったな」程度で、恨む事さえない様子だったような気がする。それが返って主人公の哀れさを引き立てて、より滑稽に表現する効果をもっていた(ひょっとしたら別の作品だったかもしれない)。
けれど現実世界だとそういかない事もあるわけだから、幾ら好き好き大好きって思っていても相手の気持ちを考えて一線は引かないと駄目。
確かこの作品に書かれていたと思うけど、「女は近づけば離れるし、離れていれば寄ってくる」みたいな言葉がある。下手に何かアクション起こすよりは、黙っていた方が余程いい。沈黙は金なりだ。こういう時に使う諺じゃなけーけど。
世の中、好意だからといって自身の暴挙を正当化する輩もいるけれども、まず相手が人間であり感情があるという事を念頭におかないと。
感情って、大変だね。
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