故郷
望郷の念というのは確かにあって、故郷を捨てた俺もたまに、彼方に聳えていた日本アルプスの山々が恋しくなったりする事もある。
けれどそんなものは精神的に弱っている人間が抱く都合のいい幻想にすぎず、いざホームシック拗らせて帰ってみても感じ入るのは最初だけで、長く住んでいれば田舎の嫌な部分をジワジワを思い出しまた出ていきたくなるに決まっているのだ。少なくとも俺はそういう人間であるわけだから、昔を意図的に懐かしむなんて事はしないようにしている。屈辱と恥辱と後悔と恨みだけは別だけども。
そんな思い出と現実のギャップを描いたのが魯迅の故郷である。
教科書に載っている短篇なので、俺の年代なら多分ほぼ100で知っている作品だろう。本当は阿Q正伝について書きたかったけど内容をほとんど覚えていないため見送る。時間があれば祖父の家から拝借してきた文庫本を読み直したい。
故郷
主人公である私が没落した実家を引き払うために一時帰郷するところから話が始まる。
記憶の中にある故郷は美しかったが、現実では土地も人々も痩せて荒んでしまっていた。それでも友人であるルントーだけは昔と変わらずにいてくれると思っていたが……
人は記憶の積み重ねによって生きていると思うけど、過去って現実じゃないから本や映画と一緒なんだよね。あぁあんな事あったなぁって思い出しても正確じゃないし、時には意図せず改竄してしまうなんて事もままあるからアテならない。酒の席で「いやぁあん時は面白かったなあ」と懐かしむくらいに留めておくのが一番いい。作中最後の一文、歩く人が多くなれば、それが道となるのだというのは、過去に捕らわれず道を作っていこう。みたいな意味が込められている気がする。昔を振り返ったってあるのは朧げな過去のでき事ばかりだ。それだったら前を向いて進んだ方が余程いい。
とはいえ、人生やり直したいとは思わないでもない。
ちゃんと勉強していい大学にいっていたら、部活なんぞやらずに気楽な高校生活を送られていたら、あの時好きな女の子に告白していたら、あんな金の使い道をしなかったら、とか、後悔ポイントを挙げたら枚挙に暇がない。これらを全てなかった事にして、違う自分が今を生きていたらと想像すると、すこしだけ生きる気力が失われる。現実は辛く厳しい。生は苦しみ世は地獄。
でも生きている以上は生きなきゃ駄目だよね! 大槻ケンジも生きざるを得ないって歌の中で言ってたし! なら今自分がどうやったら幸せになれるか考えなくっちゃ! よぉし! 一発逆転目指して銀行強盗だ! 余生は東南アジアで外籠るぞ! 望郷なんてくだらねーぜ! 故郷なんか忘れて、みんなで楽しく今を生きようぜ! な!?
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