ノルウェイの森
鼻持ちならない奴というのは日常の何処かに潜んでいて、人生の中で絶対に出会ってしまうものである。
やはり学生時代。図書室の書庫において暇潰し用の本を物色していたところ、上下巻で赤と緑という商業主義的な、あるいは拝金的資本主義万歳なクリスマスカラーの背表紙が目に入った。タイトルはノルウェイの森。村上春樹が書いた、あの悪名高きノルウェイの森だ。
この話、主人公が移動中にノルウェイの森を聴き過去を回想してから物語がはじまる。
大学に通う主人公ワタナベはどうにもスカした奴で「やれやれ」と言って冷めた目をしながら他人を小馬鹿にするような輩である(少なくとも俺はそう思った)。
そんなワタナベが色々な人間と知り合いながら、死んだ友達の彼女に会って色々してもらったり、女を取っ替え引っ替えする先輩を軽蔑したり、実家に問題があるエキセントリックな女と関係をもったり、学生運動を馬鹿にしたりして、最終的に「どうしたらいいんだろう」的な感じになる作品である。
そういえば村上春樹など読んだ事なかったなと思い軽い気持ちで借りてみたのだが、まぁなんという背徳と諦観。俺は内心イライラしつつも、巧みな文章力と魔法のような表現の前に屈服しページを捲らざるを得なかった。
くどく独りよがりな述懐を前に「うるせー馬鹿!」と声を荒らげたくなるも、溶けてなくなる綿飴のようなクリアな文章で有無をいわさず読ませてくるから声を発する暇もなくいつの間にか上巻が終わり、気が付けば下巻の最後の句点を目で拾っていた。瞬間、本を閉じ壁に投げつけたい衝動にかられるも、借り物故に堪える。
本を読んでこれほど苛々したのは初めてだった。ともかく主人公が気に食わない。癪に触る。一言一句鼻につく。湧き上がる不思議な感情。妬みとも違うし、怒りは怒りだが何かしっくりこない。俺はノルウェイの森を読んで何を思ったか、考えてみると全然分からない。あ、これワタナベと同じかもしれない。いったい俺はどこにいるんだろう的な。
やれやれ僕は納得した。
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