変身

近々シンの冠をかざし放映される仮面ライダーは元々バッタの怪人となるべく改造されたのだが、諸々あって正義のヒーローをやる事になった。


改造人間。

バッタ怪人。


字面だけ見ると気色が悪いが、テレビの中では大変カッコよく映る。

それは優れた身体能力や秀逸なデザインがあってこそであり、バッタそのものの姿であれば恐らく皆恐怖して、本郷猛をヒーローとして扱わなかっただろう(仮面ライダーシンなんてのもいるが)。身形というのは大変に重要。もし仮面ライダーが虫そのものの姿で徘徊していたら、人々は恐怖と怒りを覚え駆除に乗り出したに違いない。害がなくとも忌避すべき存在。それが虫なのである。


その、百害あって一利なしなしの存在となってしまったのが変身の主人公、グレーゴルだ。

グレーゴルは安い金で家族を養わなければならない使命を追っており、彼がいなくては家が成り立たなかった。しかしグレーゴルは虫となり、動けなくなってしまう。

虫となったグレーゴルに対し家族は嫌悪の情を露わにし、時にはリンゴを投げたりしていじめる。酷い話だ。



変身を読んだのは大学を卒業した後。海外文学でも読んでみるかと、夜間飛行やクリスマスキャロル、ジキルとハイドなどと一緒に購入したような覚えがある。田舎の工場で働きながらピコピコとスマフォで作品を書きつつ、週末には派手に遊んでオケラ状態となるような荒んだ生活をしていた頃。刹那の衝動に抗えず自己嫌悪する俺にとってこの作品は遊ぶための糧となった。


家族のために働き、まともな人生を歩めない主人公。いつまでこんな生活を続けるのか。終わったらどうなるのか。不安を抱えながら、眠り、働く毎日。挙句、虫へと変身である。考えただけで絶望してしまいそうだ。

しかし主人公は思いの外ポジティブで、足がひしゃげたり息が苦しくなっても部屋の中を歩き回って怒られ、床に捨てられたご飯を元気に食べたりする。そう、思いの外能天気なのである。

悲愴なはずなのに、悲劇的なはずなのに、シュールでナンセンスな展開が続き、読んでいくと笑わずにはいられないというとんでもない作品である。



読後、俺は思った。

金がないくらいでしょげていてなんになる。俺は人間の身体をしているんだ。虫じゃない。ならば、遊ぼう! 酒を飲もう! 飽きるまで! と。


結局のところそうした開き直りは長く続かずまた悲観する毎日がやって来るわけだが、あの時感じた刹那への探求心は死なず、大いに作品に生かされていると思う。ありがうカフカ。虫嫌いだけど。



ちなみに先に記したしたリンゴを投げられるシーンは抱腹絶倒ものの名場面なので、そこだけでも是非読んでいただきたい。


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