後輩と出会った日②

「……絶対モテるだろ」


これが一番最初に頭に浮かんできた言葉だった。少し覗き込んでるだけだけど容姿の良さは分かる。これが美少女って言う生き物か。今まで会ってきた美人ランキング上位に入るぞこの子。


自分の席なのか分からないけどもう帰る準備を済ませてるのか、机の上にはカバンが置いてある。


胸のリボンは青、つまり伊吹の言っていた通り1年生だろう。でも下級生に関わりのある知り合いなんていないと思うけど、中学の時もいなかったし。


でも待ってるってことはやっぱ入った方がいいよな……


少し間を置いて心の準備をする。自分の頬を両手で軽く叩いて気合を入れ、1ー3の扉を開けた。


すると向こうが俺の方に気づいて少し安心したような顔をしている……ような気がする


「えぇっと……こ、こんにちは?」


「どうも……来てくれたんですね」


俺テンパリすぎだろ……なんで今、こんにちは?なんて言ったんだ?落ち着け俺!……でも呼び出された理由はだいたい予想が着いてるんだけど


「先輩?お〜い、せんぱ〜い」


「ごめん考え事してて」


俺が頭の中で色々考えて固まってたから、1年生の子が俺の目の前まで来て手を振っている。


「それで先輩を呼び出した理由なんですけど……私、先輩の幼馴染の舞子先輩が好きなんです」


「……うん」


「だから先輩、私に協力してくれませんか?」


そう言って頭を深々ふかぶかと下げている。こんな可愛い子に頭を下げられるとは……多分人生にもうないから心に刻んでおこう。……でもやっぱ舞子絡みの呼び出しだったか。1年生でまだ入学してから1週間くらいしか経ってないのにこんな美少女に惚れられるとか伊吹どんだけだよ……


でもこれで何回目だ?この手の呼び出しは……今回も薄々……と言うかだいたい予想が着いていた。毎回いくつか質問をして答えられない人には協力しないようにしている。そもそもほんとに好きなら本人に告白すればいいのになんでわざわざ遠回りをするんだよ……


この子には悪いけど試させてもらうか、俺に助けを求めてくる人はだいたい伊吹と付き合ってるってことで友達に自慢したい人達だと俺の中で統計が取れている。具体的にどこが好きなのか全く言おうとしないのが特徴だ。そういう人は顔がかっこいいからとか見た目のことしか言わない。この子もそういうことしか言わないのかもしれないけど


「ちょっと伊吹のことで質問いいかな?」


「いいですけど」


「じゃあすごい失礼だとは思うけど伊吹のどこを好きになったの?」


我ながらこの質問はほんとに酷いと思う、なんも関係ないやつに好きな人の好きになったか言うなんて俺が相手側だったら気持ち悪いと思うもんな……


でも伊吹みたいな良い奴を変な人と付き合わせなくないから仕方ないんだ!


「まず優しいとこですかね、一人でいる人にも優しくしてるところとか」


「確かに」


伊吹は昔から基本的に人と関わることが好きなタイプの人間だ、人と喋るのが好きだしクラスの隅とかで一人でいる人とかに結構話しかけてるしな、部活でもそんな感じって言ってた気がする。俺と仲良くなったのだって保育園で1人の俺に話しかけてくれたからだったしな、もし伊吹があの時俺に話しかけてくれなかったらほんとに友達1人とか言う偉業を成し遂げる事になってたからな


「あとは人のことを考えて自分の子を考えずに行動しちゃうとこ……ですかね」


あ〜確かにそういうとこあるわ、自分の事とか二の次で他人のために行動するとこ。前だって公園で遊んでた小学生のボールが木の上に乗っちゃったのを一日中楽しみにしてた行列ができるスイーツ店、それも期間限定のケーキを買うのを諦めてまで取ってたし、高所恐怖症の俺には絶対無理な高さだったのに全くビビらず行くとかほんと尊敬するとこだ


……よく伊吹のこと見てるんだなこの子、まだ1週間近くしか伊吹のこと知る時間なんてなかっただろうに今まで呼び出ししてきた他の人よりよく伊吹のいいとこがわかってる、こんなに伊吹のいい所を言えるんだから自慢のために付き合おうとしてる訳じゃないだろうし


「あとは、言い出したらキリがないですね」


「……気持ちはよくわかった、協力させてくれ」


「……ほんとですか?ありがとうございます。では今日の放課後喫茶店かどこかで作戦会議しませんか?先輩帰宅部でしたよね?」


「確かに帰宅部だけど今日って、急だな、まぁいいけど」


まさか当日に作戦会議しようと言ってくるとは……でもそれだけ伊吹の事が好きってことなんだろう。よし!ここはひとつ今までの仮を返すために頑張るか!こんな可愛くて一途な子なら伊吹のことをきっと幸せにしてくれるだろうし!

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