純粋無垢な言葉のトゲ
ついこの間、小学生との交流会で私は一人の小学生と出会った。身長は小学生の男児にしては大きく、頭は青々とするほどに丸くしていて、いかにも野球をやっていそうな、元気そうな子供だった。
交流会の内容は農場に行って一緒に収穫したり、野菜の豆知識をその小さな脳に叩きこんだりとさまざまだったが、その子は知っていることには「うん!」と、知らないことには「分かんない!」と、実にハッキリと答えてくれる。
そんな真の意味で純粋無垢そうな子供だった。
そんな子供だったからか、私自身童心に戻った気持ちで一緒に楽しく時を過ごしていたのだが、悲しきかな、楽しい時間はすぐ過ぎるようにできている。気づけば実習の時間は終わり、少年は袋いっぱいに詰めた野菜を手に手を振っていた。
だがその時だった。その時少年は私の心にグサリと薔薇の棘を投げ散らかしてきたのだ。
「おじさん、ありがとう」と。梅酒のようにサラリと、その言葉を。
私は一瞬「ん?」となった。思考は焼き切れ、空いた口は伽藍堂、目と心からは汗がタラタラと流れてきていた。
そう、おじさんと言われたのだ。
たしかに深く被った帽子に作業服、更にはご時世的にマスクと顔面はあまり分からないような格好をしていたが、声色、目の周り姿勢しぐさを見ればこいつは若々しくてピッチピチな高校生だなとクソガキでも気づくだろう。
だが目の前の少年は曇りなく言った。おじさんと。
流した涙は血に変わり、空いた口からは怨念が漏れでる。
それでも私はさようならと笑顔で応える。営業スマイルよりも営業スマイルな、紙に書いた絵を貼り付けたような、そんな笑顔で。
みんなは純粋無垢でありたいと、思ったことはあるだろうか。私はこの経験をしてからは、自分は汚れた人間でもいいんじゃないかと思うようになってきた。
悪意がないから怒れない。そんな無敵で無慈悲な攻撃を繰り出せるのは子供の特権なのだ。
すくなくとも高校生以上の人間は純粋無垢は許されない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます