14彼がこの町に来た目的は
「先生、先生、大丈夫ですか?」
先生と呼ぶ少年の声で目を覚ます。一体今は何時だろうとしぶしぶ目を開けて、辺りを見回すと、私は塾の控室の椅子に寝かされていた。目覚めた私は自分が置かれている状況を理解しておらず、頭はまだ覚醒していなかった。
「今は何時ですか、九尾?」
「よかったあ。目を覚ましましたね。突然倒れたので、心配したんですよ!」
私を起こしたのは、塾にいるはずのない、西園寺雅人だった。その声に、やっと頭が正常に動き出す。
「どうして、君がここに……。私は確か……、ゆきこちゃんは大丈夫でしょうか?他の生徒は?車坂や翼君はどこでしょう?」
あたりを見渡すが、そこには西園寺雅人が一人いるだけで、他に人は見当たらない。どうして彼が塾にいるのだろうか。
「僕がここに居る理由ですか。それなら簡単ですよ。朔夜さんにつけた式が毎回、途中でいなくなるか、戻ってくるかのどちらかで、困っていたんです。それで、誰が僕の式の邪魔をするのか見に来ました!それにしても、先生と呼ばれて起きるなんて、ちゃんと塾で先生をしているんですね」
「式って、あの白い人形型に切り取られた紙きれですか?」
「ああ、ここの責任者には連絡はしていません。そもそも、この塾の先生って、人間がいないですから、そんな礼儀は必要ないですよね。生徒は運がいいことに、ゆきこ以外いなかったので、勝手に上がらせてもらいました!」
私の質問に答えず、堂々と不法侵入を宣言する西園寺雅人。さらに彼は、私と当事者しか知りえない情報を暴露した。車坂も翼君も人間ではないが、どうして知っているのだろうか。それに、ゆきこちゃんとは知り合いのようだ。彼はいったい、何をどこまで知っているのだろうか。
「それで、倒れた私をどうして、君が介抱しているのでしょうか?」
勝手に塾に入ってきたことはわかったが、それでも彼らが近くにいないのはおかしい。彼らなら、西園寺雅人が塾に入ってこないようにできたはずであり、入ってきても、私と二人きりの状況にはしないはずである。
「それはですね」
「開けてください。蒼紗さん。そいつは危険です。できるなら今すぐ離れて!」
「くそ。ドアに結界が張ってある。朔夜さん。無事ですか!」
西園寺雅人が状況を説明する前に、自分の今の状況が徐々にわかってきた。外から車坂と翼君の声がした。どうやら、無理やり私はこの部屋に運ばれたようだ。ドアをどんどんとたたく音が聞こえるが、ドアを開けて、二人が入ってくることはなかった。
「そう睨まないで。僕はあなたに質問があってきました、その質問に正直に答えてくれたら、二人のもとに返してあげますよ」
西園寺雅人は、いつの間にか私の近くまで近寄り、耳元でささやく。ぞっとするような冷たさを含んだ声に、私は彼からとっさに離れようとしたが、腕を掴まれて身動きをできなくされた。
「あの狐の野郎はどこにいるのか知りませんか?」
とっさに嘘をついてしまった。西園寺雅人は、西園寺グループに縁のある人間だ。そんな人間が狐といったら、おそらく九尾のことで間違いはないだろう。
しかし、知っていたとしても、話すつもりはなかった。西園寺雅人からは、やばい気配がしていた。私の本能が話すなと告げていた。嘘をついて、知らないと押し通すつもりだが、果たして、私の嘘は信じてもらえるだろうか。
「『狐の野郎がどこにいるのか』なんて、変な質問ですね。そもそも、狐なんて、その辺の山にいますよ。もし、どうしても会いたければ、動物園に行けばいい。もしかして、狐をペットに飼っていたのですか。狐を飼う人はあまりいないというか、狐って、病気を持っているかもしれませんから、ペットとして飼うのはおススメしません。北海道の野生の狐なんか、触るのも危険というのは聞いたことがあります。ああ、それとも、『狐の野郎』というのは、狐のケモミミ尻尾をつけたコスプレをした人のことですか。それならまあ、探すのは手伝いますよ。普段からそんな恰好をしているとは思えませんので、見つけるのは困難だとは思いますが」
ついつい、九尾のことを言うまいと思っていたら、饒舌になってしまった。これでは怪しいことこの上ない。狐の野郎が何なのか知っているとばらしているようなものだ。それを隠すために一生懸命話していると思われたかもしれない。
まあ、九尾はちょうど家出をしていて、どこにいるのか見当はつかないのだから、何を言われても話すことはできないが。
「しらばっくれても無駄ですよ。あなたの家に、うちの狐が居候しているのはすでに把握済みです。彼は僕のそばにいなくてはならない大事な存在です。桜華のせいで、彼は僕の前からいなくなった。桜華の奴、西園寺家から逃げようとして、九尾を僕からは引き離した挙句、そのまま死んじまいやがった。自業自得のバカ女だったな」
いくら西園寺家の身内とはいえ、死んでしまった西園寺桜華に対して、あまりの物言いにカチンと来てしまった。そのため、言わなくてもいいことを言葉にしてしまった。
「西園寺さんは、九尾によって殺されたようなものです。西園寺さんは悪くない。どうして身内なのにそんなひどいことを……」
「やっぱり、九尾のことを知っていた」
鎌をかけていたのだろうか。にたりと笑った雅人君に鳥肌が立ったが、逆に冷静になることができた。とにかく、この場を脱出すること先決で、部屋の外にいるであろう、坂や翼君と一刻も早く合流する必要があった。
『ここから私を出しなさい』
西園寺雅人の目を見て、私は自身の能力、言霊の力を発動する。私と西園寺雅人の周りが光りだし、私の瞳は金色に輝きだす。
「しまった!」
慌てる西園寺雅人だが、私の能力はすでに発動してしまっている。見る見るうちに西園寺雅人の顔からは表情が無くなった。そのまま、操り人形のように部屋のドアを開けてくれた。
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