8冬休みは京都で過ごしました
塾を終えて、家に帰ると、九尾が出迎えてくれた。
「おかえり、主よ。冬休みの予定の確認をしたいのだが」
「ただいま。確かに今日で授業も終わりで明日から冬休みですからね。予定を確認したいのはわかりますが、今日じゃなくて、明日でもいいですか?今日はもう疲れてしまったので、風呂に入って寝てしまいたいです」
出迎えてくれたのはうれしいが、いきなり冬休みの予定を確認したいと言われて困惑してしまう。とりあえず、大学の授業と塾のバイトで疲れているので、明日にして欲しい。
「おかえりなさい。蒼紗さん」
「おかえり」
翼君も狼貴君も、私の帰りを待っていてくれて、玄関で出迎えてくれた。生前は成人済みの男性だったようだが、今は中学生くらいの少年であり、頭と尻尾にケモミミと尻尾が生えている。翼君は白いウサギの耳に白い丸い尻尾、狼貴君は、狼らしい耳にふさふさの狼の尻尾が生えていた。
はっきり言って、私の性癖ドストライクなので、疲れていても、彼らに出迎えてもらうだけで、いやされる。九尾も彼らと同様、狐のケモミミとふさふさの尻尾を生やしたケモミミ少年であるので、理不尽なことを言われても、なんだかんだ許しているような気がする。ケモミミ少年の破壊力は恐ろしい。
「人間は、なんて弱い生き物だ。まあ、仕方ないことか。早く風呂に入って今日は寝るがいい。また明日にでも予定を確認するからな」
九尾は私の疲れた顔を見て、あっさりと引き下がる。
「では、おやすみなさい。蒼紗さん」
「おやすみ」
九尾の眷属のケモミミ少年二人も、九尾の後に続き、自分たちの部屋に戻っていった。私は急いで風呂に入り、そのまま自分の部屋に入り、ベッドにダイブして、そのまま寝てしまった。
「九尾から冬休みの予定は聞かされましたか?」
「えっと、確か京都に行く予定でしたよね。でも、私は宿の用意とか、いつから出発でいつまで京都に滞在するとか、具体的な話は何一つ聞いていませんが」
次の日、朝食を三人で食べながら、私たちは冬休みの予定を話し合っていた。最近は、朝食の準備を翼君と狼貴君の二人がしてくれるので、私はイスに座っているだけで、朝食にありつけるようになっていた。至れり尽くせりで申し訳ないのだが、彼らにしてみると、居候している身なので当然の行為らしい。
「それを今から話そうと思っていたのだ。宿代や旅行費は心配いらない。それと、予約についても大丈夫だ。何せ、今回の費用は全て、西園寺の関係者に持ってもらうからな」
「西園寺って、もしかして、西園寺さんの実家に泊まらせてもらうってことですか?」
西園寺グループの倒産に伴う不穏な動きの確認と、西園寺家の後始末のために京都に行くと、翼君は言っていたが、まさか私たちの旅行費などすべて西園寺家に払わせるつもりだろうか。そもそも、九尾が神様だと向こうは認識できているのだろうか。
「そう不安そうな顔をするでない。今回の件を頼んだ相手は西園寺家の関係者、ゆかりのある人物であって、西園寺家本体ではないから安心してよいぞ」
九尾の他人任せな旅行プランに不安そうな表情を浮かべていた私に、九尾は説明を加える。
「大丈夫です。費用といっても、旅行費も宿泊費も、実質蒼紗さん一人分でいいんですから、出してもらってもそこまで相手の負担にはなりません。何せ、僕たちは人間ではないのですから。それに、今回の件を依頼した人物は、蒼紗さんがよく知る人で」
「雨水静流だ」
翼君と狼貴君が九尾の説明にさらに付け加えて説明する。
雨水君か。雨水家は代々西園寺家に仕えていたというから、お金持ちなのだろうか。でも、西園寺さんが亡くなって、雨水君の立場は微妙なのではないか。
「まったく、面倒な奴だな、お主も。大丈夫なものは大丈夫だといっておろう。それに、雨水の坊主もお主に会いたがっていたからのう。それでチャラにしてもらった」
「そんなことで費用を出してもらうというのは、さすがに……」
「久ぶりの京都です。どこを回ったらいいですかね」
「オレも楽しみだ」
「我が京都を案内してやろう。何せ、西園寺家と契約を結んで以来、ずっと京都に縛り付けられていたようなものだからな。観光名所からおいしい料理屋など、京都に関してはすぺしゃりすととなった我に案内は任せるがよい!」
どうやら、私以外の三人は京都行を楽しみにしているようだ。私がいろいろと心配することはないのだろう。それに、もし今から旅行の手配をしろといわれても、すでに予約はいっぱいで宿をとれるとは思えないので、今回は、九尾の言葉を信じ、甘えることにしよう。
こうして、私たち三人はクリスマスから年始年末までの間、京都で過ごすことになった。そんなに長い宿泊を雨水君は快く受け入れてくれた。九尾たちは、西園寺家の後始末だと言いながらも、時折、私の前からいなくなることはあったが、ほとんどの時間を一緒に過ごした。雨水君も、私たちにつき合ってくれ、京都の観光名所を思う存分回ることができた。
京都に滞在期間中、やはりというか、何というか、無事平穏に過ごすことはできなかった。西園寺グループの中で、西園寺桜華以外で次期当主に最も近かった少年と出会った。彼とは、なぜか一緒に食事をしたり一緒に観光したりしたのだが、それはまた後日語るとしよう。
西園寺グループは倒産したが、京都駅近くにある本社ビルは解体されずに残っていた。中に入ることはできないらしいが、京都駅前にそびえたつビルが、西園寺グループがいまだに健在であるという錯覚をもたらしていた。
雨水君には、久しぶりに会うことができた。西園寺桜華の死をきっかけに大学を辞めた雨水君に、私は未練がましく。大学には戻らないかを尋ねた。
「大学に戻る予定は今のところない」
そう言いながらも、近い内に私たちの町を訪れる予定はあるそうだ。
ジャスミンや綾崎さんは、私が京都に行くことを知っているので、いつ行くのか、いつまで滞在するのか、しつこいくらいに詳しく聞かれた。あまりにもしつこいので、面倒になって正直に答えたてしまったら、まさかの一緒に行きだすと言い出した。当然、お断りしたのだが、彼女たちはあきらめが悪かった。
ジャスミンと綾崎さんは。私を追いかけて京都まで来てしまった。さすがに冬休みということもあり、どこの宿も予約で埋まっていて、京都で泊ることはなかったが、一緒に観光して、食事をして、日帰りで帰っていった。帰り際には二人とも泣きながら、私との別れを惜しんでいた。私との別れが泣くほどのものだろうか。そもそも、冬休みが明けたら、すぐにまた大学で会うことになるのだから、今生の別れというわけでもあるまいに。
とりあえず、忙しい冬休みとなったのだった。塾のバイトは、車坂に京都に行くと話して、休ませてもらうことになった。私と翼君の二人が休むことになるのだが、車坂は私たちに文句を言わず、休みをくれた。
「別にいいですよ。私の仲間に応援を頼むだけですから」
車坂に塾講師の仕事を押し付けられる死神を可哀想に思いつつも、私は京都旅行に行き、それなりに満喫するのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます