9休み明けは波乱とともに

 冬休みが終わり、今日から大学が始まる日だ。冬休みはあっという間に終わってしまったが、京都で過ごした冬休みは、いろいろあったが楽しい思い出となった。最近では珍しく、年始年末を一人で過ごすことはなかった。九尾や翼君、狼貴君、雨水君と一緒に大みそかには、彼らと一緒にカウントダウンをして年始を祝ったり、京都の神社で人ごみの中での初詣などを体験したりした。


 ここ最近の年始年末の過ごし方と比べると、雲泥の差だった。自分の体質に気付き、周囲とはなるべく関わらないようにしながら、いつ仕事を転職してもいいように、人付き合いは最低限を心がけ、波風絶たないように平穏に過ごしてきた。


 当然、年始年末を誰かと過ごすことはなかったので、今年の年始年末の過ごし方を過去の私が見たら、驚いているだろう。


 ちなみに、クリスマスを私と一緒に過ごしたかったジャスミンと綾崎さんだが、彼女たちの願いは成就されたと言える。日帰りとはいえ、クリスマスを一緒に京都観光したり、食事をしたりしたので、少しは満足してくれたと思う。


 結局、京都での滞在期間中は、雨水君の実家にお世話になった。雨水君は現在、実家でアルバイトをしているらしい。雨水君の両親は冬休みに海外旅行に出かけているようで、私たちが泊まっても問題がなかったようだ。


 冬休みの出来事を思い出しながら、私は大学に着くと、今日も更衣室でコスプレの準備をする。今日の衣装は、正月明けということで、巫女さんにした。白と赤のコントラストが正月らしくて華やかだ。更衣室を出ると、ちょうどジャスミンと綾崎さんと出会った。


「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」

「あ、あけましておめでとうございます。蒼紗さん。今年もどうか不出来な私ですがよろしくおねがい」


「あけましておめでとう。こちらこそ、蒼紗になら、よろしくお願いされなくても、お願いしちゃうわよ。ちょっと、綾崎さん、そこをどいて頂戴。蒼紗の隣に立たないでもらえるかしら。邪魔だから」


「く、苦しいので、一度離れてもらえますか?」


 久しぶりに会うジャスミンと綾崎さんに私は抱き着かれていた。私は今、絶賛モテキのようだ。ただし、変な女性に限るという制約付きだ。珍しく、綾崎さんもジャスミンも私と同じ格好をしていた。今日は、三人そろって、巫女さんの姿となっていた。


 私の言葉を聞き、二人は少しだけ抱き着く力を緩めたが、私から離れてはくれなかった。仕方ないので、そのままじっとしていたのだが、つい今日の服装について言葉をこぼしていた。


「今日は、おそろいですね」


 ぼそっとつぶやいた言葉はしっかりと拾われていた。


「そうなの。正月といえば、初詣。それで、きっと正月明けだからきっと蒼紗は巫女装束で来ると踏んでいたわけ。そこの似非巫女の事情は知らないけど」


「私も不本意ながら、同じ考えです」


 ようやく、二人は私から離れていく。二人曰く、会えなかった分の『蒼紗成分』の補給らしい。それが満たされたようだ。


「それにしても、正月に入ってからずいぶんと寒いわねえ。こうも寒いと気が滅入るね」


 再開のハグが終わり、一限目の授業に向かう途中で、ジャスミンが身体を震わせて最近の気候について文句を言う。


「私は結構、寒いのは得意な方ですが、それでも正月明けからの寒さは異常だと思います」


「寒さもありますが、雪も例年より多い気がしますから、これも地球温暖化の影響とでも言うのでしょうか。早く暖かくなって欲しいものですよ!」


「朔夜さん、朔夜さんの、大学での話が面白かったから、どんなところから見に来ちゃいました!」


 寒い寒いと、口にしながらも廊下を歩いていると、大学で聞くことはないだろう声が廊下に響き渡る。声をかけてきたのは、つい先日あったばかりの、西園寺家の次期当主として、西園寺桜華に次ぐ候補に挙げられていた、西園寺雅人(さいおんじまさと)だった。


「あ、あなたはもしかして……」


 綾崎さんは西園寺雅人のことを知っているようだった。西園寺グループの血縁者なのだから、有名で当然なのだろうか。私はその手のことに詳しくないので、西園寺雅人の顔を見たのは、京都での滞在が初めてだった。


「雅人君ってまだ高校生でしたよね?高校に行かず、こんなところにいて大丈夫なのですか?」


 西園寺雅人の年齢を思い出して、私は心配になる。確か、今年で高校三年生になると言っていた気がする。それが本当なら今年は受験をするか、就職するか、いろいろ大変な時期である。


「大丈夫ですよ。僕は成績がいいので、大学も推薦がもらえていますから。僕のことを心配してくれたんですか。うれしいなあ」


「すまない。朔夜。止めようとしたんだが、どうにもこいつには逆らえなくて」


 後ろからひょっこり顔を出したのは雨水君だった。私たちの町を近い内に訪れるとは、西園寺雅人の護衛としてということだったのだろうか。


「ひどいなあ、静流は。でもまあ、ここはいいね。自由だから何でもできそうだ。それに、あいつもいる」


「ど、どうして、こんなところに西園寺グループ血縁の子供が」


「蒼紗あ。説明してもらおうかしら?私の居ないところで、また人をたらしこんだのねえ」


 綾崎さんは、西園寺雅人がここに居ることにひどく動揺し、ジャスミンは私に詰め寄って理由を説明しろと圧をかけてくる。雨水君は困ったような顔でしきりにすまないと謝ってくる。西園寺雅人は、大学が珍しいのか、辺りをキョロキョロ見渡していた。


 スマホでこっそり、現在の時刻を確認すると、すでに一限目の授業は始まっていた。ここに居る人たちを赤の他人と思い、私だけでも一限目の授業を受けようかと思ったが、すでに授業が始まっているし、このまま彼らを放置しておいても、ろくなことにならないことは目に見えている、


「はあ」


 とりあえず、西園寺雅人には、大学に来ないように説得しなければならない。とっとと自分の地元の京都に帰って欲しい。

 

 窓から見える景色は、寒そうな雪空だった。いかにも雪が降りそうな、黒い雲に覆われた空が、私の今の気持ちを表しているようだった。


 これは面倒事になりそうだと新年早々、疲れがたまる一日の始まりとなった。

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