夏、彼と爽やかなひとときを。

三瀬 しろり

彼と私

彼はモテモテだ。


特に夏になるといっそう彼の魅力が際立って、男女関係なしに彼に群がる。


それはそれでいい。だが、私が嫌なのは彼がすぐに目移りしてしまうことだ。


いつもキョロキョロと視線をさまよわせ、誰これ構わず愛嬌を振りまく、サービス精神旺盛な彼。あんなに首を振って痛くならないのかと時々思ったりもする。


ともかく、私は自分だけを見ていてほしいのだ。


我ながら勝手な願いだとは重々承知だ。

だが、今年はまだ一度も彼の近くの席になれていない。その上もう少しで彼はいなくなってしまう。少しくらい望んでみてもいいじゃないか。


狭い教室の中でも、彼と距離が離れてしまうことなんてざらにある。


そんなとき、彼と席が近くになった面々はみんなガッツポーズをして、彼はそれを眺めて、私はギリギリと歯を食いしばる。


すでに汗だくな私は、こみ上げてくる羨ましさに体が熱くなり、さらにダラダラ汗を垂らす始末。





しかし、ある日、私に転機が訪れた。


席替えで、廊下側の1番後ろの席──つまり彼の前の席になれたのだ。


周辺の面々はやはりどことなく嬉しそうで。今度は私も満面の笑みでそこに加われた。



そうしてもう一つ、とても嬉しいお知らせが。


私は一番席が近いということで、彼のお世話係に抜擢されたのだ。こんなに光栄なことはない。


これで彼は完全に私の手の中。しかも私は彼に一番近い存在。ああ神様、ありがとうございます!


「では、授業を始めます。あぁ、係の人、お願いね」


「はい」


私はそう言うと、背後に向き直った。


汗ばんだ手をゆっくりとのばす。























室温28度の、エアコンさえ取り付けられていない教室で、私は「入」のボタンを押した。



爽やかな風が、私の髪をさらっていく。

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夏、彼と爽やかなひとときを。 三瀬 しろり @sharp_r

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