リバースストーリー2−16【後日談〜成人の儀・開催〜】



◇後日談〜成人の儀・開催〜◇


 夜になり、ポツポツと灯りが目立つようになってきた【アルテア】。

 村のシンボルである塔に、成人の儀を受ける新成人(一年遅れ含む)が集まって来ている。


「……結構いるわね」


「そうね。多くの種族が集まっているのだし、数は多くても不思議じゃないけど」


 ぞろぞろと、用意された部屋には既に三十人以上が居た。

 時間的にまだ増えるだろう。ここの部屋は女性用で、隣室は男性が居る。

 合わせれば七十人は集まるだろう。


「でクラウ。これ……本当に着るの?」


「……着るしかないでしょ、ニイフ陛下のご厚意だもの」


「そ、そうよね。正装だものね」


 部屋で衣装を確認するクラウ、ミーティア、イリアの成人三人。

 一年遅れのセリスは、怪我が完治していないため辞退だ。


「ミーティアとイリアはいいわよ、胸があるから」


「見られて嫌な思いをするだけよ。ねぇイリア」


「わ、私はまぁ。そこまで目立ちはしないので」


「「……」」


 誰が言うのかと、二人に見られるイリア。

 ハーフエルフのイリアは、控えめでも美人で通る。

 謙遜しているのだろうが、人が人なら嫌味だ。


「見なさいよこの馬鹿でかい胸、私の顔ほどあるわよ……」


「きゃっ!ちょっとクラウ……!?」


 着替えを始めようとしたミーティアの背後に回り、クラウはぎゅむっと両手で掴みに掛かった。身長差がある分、非常に大きく見える。胸が。

 日頃相談してあげている謝礼を、持たざる者のクラウは要求しているのだ。


「ほほう……またデカくなったわね。コレもう、G……いやHか」


 指折りでABC……と数えだすクラウ。

 自分はAで終わりだと言うのに。虚しい行為だ。


「クラウ、そこら辺にしておきましょう……周囲の方たちが見ていますよ?」


 イリアの言葉にクラウは目を光らせて。


「アンタもそうとうデカいわね……このっ」


「――え」


 飛びかかる勢いで、クラウはイリアに移る。

 「ひゃああああ」と恥ずかしがりながらも、揉みしだかれる事に拒否感を出さないイリア。意外とこういうノリは嫌いじゃないらしい。


「D……F!?」


 このような感じで、精霊解放以降の【アルテア】は平和である。





 式が始まった。

 塔の中には、式典が行えるほどの広さの場所をミオが用意している。

 白い壁の部屋に、光源を発生させる魔法の道具。


(そろそろ電気を通したいよな……【ステラダ】も壊滅してしまって、人はほとんど【アルテア】に移住し始めてる。同じ理由で、北の【王都カルセダ】の住人もだ)


 ミオは式のサポート役だ。

 主催は三国の代表と、エルフ族の女王ニイフ。

 移住してきた人たちも参加が可能で、正装はエルフ族の少々派手な衣装。

 特に女性は露出が多いので、注意が必要だ。色々な意味で。


「それでは、【アルテア】成人の儀……開催!!」


 ミオの父、ルドルフ・スクルーズが宣言する。

 帝国代表として、皇女セリスフィアの代役だ。

 女王国代表はロッド・クレザース。公国代表はルーファウス・オル・コルセスカだ。因みにルーファウスも成人だが、今回は代表を優先すると言って辞退している。


 ルドルフの宣言と同時に扉が開かれる。

 そこから入場する、成人を迎えた男女。


「おぉ〜〜〜」


 ミオだけではなく、多くの関係者が声を漏らす。

 その姿は、派手で艶やかだ。男性も化粧を施し、ミオたち転生者たちから言わせれば……傾奇者かぶきものと言われる部類のものだろう。


「すっごいな、ミオ」


「ノワさんはもう相手いるでしょ」


 式典の準備を手伝ってくれたノワ・パレーヴァも、鼻を伸ばして感想を。

 

「そ、そんないやらしい目で見てないって!」


「いやいや、目がスケベだよ。獣人のお姉さんばっかり見てるじゃん……奥さんに怒られるっすよ?」


 何気に失礼だが、事実。

 ノワ・パレーヴァ……顔はいいがスケベで、ケモナーだ。


「ペルは怒らないさ。昨日もいい感じだったしな!!」


「報告いらないが」


 サムズアップでウインクをするノワに冷静にツッコむ。

 しかし。


「お!ミオ、お嬢とクラウが出てきたぞ……すっげぇ格差社会だな」


「アンタそのうち後悔するぞ……」


 呆れつつも、ミオも入場するミーティアやクラウ、イリアを見て目を細める。

 そうして参加者全員が入場し、着席し。

 主催挨拶が始まり、祝いの言葉を授かる。


 因みに主催挨拶はニイフ陛下であり、成人を迎えた人たちよりも過激な衣装で登場したため、着替え直しを娘のジルリーネに言われて少し遅れるといった事態が起きたが、割愛させていただく。




 そして恙無つつがなく。

 成人の儀は終りを迎える。


「ふぅーーー、初っ端のイベントにしたらこんなもんだろ」


 片付けをするミオ。そしてアイシア。


「そうだね。それに、来年からもやるって決まって良かったね、ミオ」


「ああ。今年は始めだし、行事というよりもリハみたいなイメージで終わっちまったけど……来年からはもっと練って、出し物とか出店とかあればいいな」


 それは祭りだぞ……とツッコむ相手もおらず、二人で片付けていると。


「――ミオ」


「あ、ミーティアだよ、ミオ!」


「ん……お、おお〜〜!!」


 アイシアにうながされるままに、ミオは入口に視線を送ると、そこには正装のままのミーティアが立っていた。


「改めてみたら、凄いな……その衣装」


「う、うん。恥ずかしいけど、ミオもじっくりと見たいかなって」


「……」


 ミオは無言のままうなずく。

 ミーティアの肩に両手を置き、マジマジと目を細めて観察。

 相手を間違えれば提訴ものだが、相手は現在熱々の恋人。


「も、もう……アイシアがいるのよ?」


 赤らめた顔でアイシアを見る。

 するとアイシアは笑顔で。


「あははっっ、もう見慣れたよ」


 片付けながら、半分は無視である。


「少し待ってな、片付けももう少しで終わるから……一緒に帰ろう」


「私も手伝うよ」


 その格好ではマズイ。と、ミオは遠慮をした。

 自分の上着を着せ、せっせと作業の戻る。

 そして作業を終え、アイシアを【四神教会ししんきょうかい】へ送り、ミオとミーティアは自室へ。


 今日あった事、明日の予定。

 今後何をしたいか、次は何処へ行きたいか。

 そんななんでもない会話をしつつ食事をとり、夜が更ける。


 二人で笑い、二人で悲しみ、二人で背負う。

 共に未来を進むと決めた若者の時間は、こうして過ぎて行く。


 あっという間に時間過ぎる。

 束の間というものは、世界が平和だから成立するものだ。

 彼らの物語が再び動き出す時、世界はまた加速して……彼ら彼女らを激動へと進ませるだろう。


 二年。


 ミオ・スクルーズが十九歳になったその年。

 青年となった彼とその仲間たちに――祝福あれ。




――――――――――――――――――――――――――――――――――

※これにて少年編のエピソードは終了になります。

 青年編も引き続き、お読みいただけますと嬉しいです。

 次話はあとがきを少しほど書かせていただきました。

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