リバースストーリー2−15【後日談〜成人の儀・準備〜】



◇後日談〜成人の儀・準備〜◇


 世界全体に、新たな種族――精霊が解き放たれた。

 これは歴史的な展開として記録され、未来でも語り継がれる物語だ。

 そんなキーイベントを起こした張本人、ミオ・スクルーズは。


「そっちでいいんじゃないか?もうちょいもうちょい!」


「うん。そうね、あってると思いますよ。その調子です!」


 ミオの隣りにいるのはオレンジ色の髪の毛の少女、アイシア・ロクッサ。

 濃紫の瞳で視線を送るのは、準備を進める壇上だ。


「……ねぇ、なんで式に出る本人が準備してんのよ。ミオがやりなさいよっ」


 そう愚痴を漏らすのは、準備をする式に出席する予定の一人。

 ミオの姉、クラウ・スクルーズだった。

 辟易へきえきした顔で、壇上に立つクラウはミオとアイシアに視線を送る。


「いや〜、俺も色々・・あるじゃん?アイシアが手伝ってくれてるだけありがたいよ」


「その色々・・は私もまだ許してないからね?何勝手に人の因縁まで片付けてんのよ」


 ミオはバツが悪そうに苦笑いをして。


「そ、それは散々謝っただろぉ?土下座までしたんだから許してくれてもいいじゃん」


「土下座で全てが許されるなら、警察はいらないわよ」


 まさかの事案だった。


「あ、クラウさんズレてます動かないで!」


「……はい、すみません」


 マイペースなアイシアに、クラウはたじろぐ。


「でも、これで準備は完了だよな」


「そーね。ありがたい事に、パパたちも積極的に作業をしてくれたし、セリスとかも式の進行とかの例を出してくれたしね。それに……」


 クラウは視線を送る。

 そこには、大工をする男性が複数いた。


「精霊な」


 精霊には、基本的に野心はない事が分かっている。

 生きる為に、契約者の願いを叶える為に全力を賭す存在。


「彼らは、【アルテア】の住人の契約者なのよね?」


「ああ、その通り。悪意がないのは把握しているから、害はないよ。目的は大工らしいしな……ふははっ!」


 その願望に、思わず笑うミオ。

 この複数の精霊たちは大工の人間と契約をし、作業を手伝っているのだ。


「精霊ねぇ……続々と【アルテア】にも訪れてるけど……魔力がない人間とも契約してるって聞いたわよ?大丈夫なの?」


 壇上にで肘をついて、クラウが精霊を眺める。


「そうですね。食事や魔法の道具……そ、それから肉体的な接触などでも接収出来るようなので、それで充分らしいですよ?」


 アイシアが、ほんのりと頬を染めて言う。

 それを聞いたクラウはジト目で。


「……ふしだらね」


「まぁいいんじゃないか?聞く話によると、精霊は繁殖とかそういう概念が人類と違うそうだし……見た目は完全に同じだけどさ」


 ミオは笑顔で答えるが、クラウはそこに反応する。


「あ〜はいはい、余裕が出来た男は言うことが違うわね〜」


「……含みのあること言うなよ。だけど、ミーティアのメンタルケアはありがとうございました」


 それは、あの後の話だ。

 ミオが【王都カルセダ】から戻った後、ミオとミーティアの二人は積極的に行動を共にしていたが、それでも不安定な時はあった。

 しかしいつまでも何度でも、ミオだけに頼ることは出来ないと、ミーティアは自分の心を鍛えるためにクラウに頼んだのだ。


「そこから全部バレたのよね、ミーティアとの関係も……せ、赤裸々に」


 再びアイシアが頬を染める。


「くっ……まさかティアが恥ずかしがらずに話しちゃうとはっ。でも、アイシアがティアの背中を押してくれて……悪かったな」


「ううん。あんなの、絶対に認められないから。あたしがそうしたいからそうしただけだよ」


「そっか。ありがと」


 ミオは照れながらも、アイシアに礼をする。

 それにしても、ミーティアのクラウへの信頼は絶大だ。

 まさかデート内容や話の一言一言、夜の二人の情事まで……と、そこまでは流石に冗談だが、赤裸々に話すとは。


「……あの子は依存体質な癖に、それを否定しようとするからね。だから簡単には頼らないのよ……大切なものには、特にね」


 大切なものは遠ざける。

 ミーティアの根本の考えはそうなのだろう。


「でも、周りに言われれば素直に実行するし、意見も聞くわ。良い意味でも悪い意味でもね」


「……だな」


 ミオが一番理解している。

 その通り、ミーティアは悪い意見も素直に聞き入れてしまう。

 勿論良い意見も聞くが、取り入れなくてもいい意見まで真面目に聞いてしまうのだ。


「ミーティアの事は、ジルやジェイルも細心の注意をするって言ってるけど」


「ああ、分かってる。あの二人は、近い内に忙しくなるからな」


 ジルリーネとジェイル。

 二人は、約百年前に失われたエルフの王族だ。それを、ここ【アルテア】で復活させる予定なのだ。

 【アルテア】に秘宝を授けてくれた女王ニイフ陛下への、最大の礼として。


「よし終わり、あとは式を待つだけね。異世界で成人式だなんて、思いもしなかったわよ」


「正式には成人の儀……だけどな。どの国でも、普通は家個人でやるらしいんだけど、やっぱり【アルテア】にも人が増えたし、行事とかやりたいじゃん?」


「……ミオ、意外とそういうの好きだよね」


 アイシアが苦笑い。


「自分は参加するの拒むくせにね」


「企画立案タイプなんだよ。いいだろそれで」


 笑いながら、今日の夜に行われる【アルテア】成人の儀の準備を終える。

 三国からの多くの人たち、そしてエルフ族や獣人、新たに精霊。

 人も増え、広く大きく発展する【アルテア】に……初めての行事が行われる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る