リバースストーリー2−14【後日談〜遠い世界の魔王様〜】



◇後日談〜遠い世界の魔王様〜◇


 その日、世界に精霊が解放された。

 四千年前の時代に封印され、きたる時まで眠りについていたと言われた、この世界に存在するもう一種の種族。


 【人間族】、【天族】、【魔族】に【獣人】、【エルフ】。

 【竜人ドラグニア】などの少数種族も存在するこの世界で唯一、他の種族と契約をすることで生きることが出来るまれな存在。

 共生することで真の力を発揮し、その契約相手に絶大なる力を授ける。

 対価を求め、その要求は多岐だ。


 対価は基本的に魔力だ。

 しかし、時には血肉を、時には肉体接触を望む者もいるという。

 精霊は生命力に魔力を必須とする種族だが、その魔力を回復する手段がない。だから他種族と契約をすることで、生命を維持する。


 【リードンセルク女王国】にてくさびが解かれた。

 それを発端として、世界各地で眠っていた精霊が活動を始める。


 三代国家がある東大陸、少数種族が多く存在する西大陸。

 そして分断された、魔族がその大半を占める【ラウ大陸】。

 世界中で精霊が眠りから覚め、そして各々、憑代よりしろを求めて彷徨さまよう。


 それは、この場所……【アルテア】から西へ進んだ帝国内の道中でも、同じだった。


「これは……報告を!!」


 馬車の中から不思議な気配を察知したのは、【帝国精鋭部隊・カルマ】所属のライネ・ゾルタールだ。

 横には眠るユキナリ・フドウもいる。


 ライネは皇女セリスフィア・オル・ポルキオン・サディオーラスの指示で、ユキナリを帝都の母のもとへ送り届ける任務の最中だったのだ。


「異常な魔力反応を感知!物凄い数です!!」


「馬車の周囲にも反応が!こ、これは……うわぁぁぁ!」


「――ちっ!」


 ライネは敵襲だと判断して、【アロンダイト】を顕現けんげん

 眠るユキナリを確認しつつ、馬車を出る。


「……な!?なにこれ……ゆ、幽霊!?」


 馬車の周囲をグルグルと回る、霊体と思われる半透明な存在。

 咄嗟に剣を振るおうとするも、ライネは寸前で停止する。


(だ、駄目……斬っちゃ駄目だ!)


 それは本能だった。

 敵か味方かも不明な状況だが、悪意だけは感じなかった。

 隠れた瞳が見据えるその霊体……精霊は、馬車に集まって来ている。

 それをライネも感じた。


「全員、攻撃はしちゃ駄目ですよ!」


「し、しかし!」


「命令です!魔力に反応する装備は解除!全身をフラットにして!」


 帝国は魔力を含んだ装備も多々配備されている。

 ライネは、この霊体たちがそれに反応していると気づき、装備の解除を命令した。


「「りょ、了解……」」


 帝国は階級によって序列が決まる。

 【帝国精鋭部隊・カルマ】は軍人である……地球の軍隊と同じと言えよう。

 ライネ・ゾルタールの階級は少尉。部下たちは軍曹だ。

 更には貴族でもあるため、ライネ・ゾルタールの指示には逆らわない。


「……なんなの、この不思議な感覚――ん、ユキナリ!」


 一つの存在が、馬車に近付いた。

 霊体はゆっくりと形を作りあげ、半透明な人型になった。


「そこから離れなさいっ!」


 言葉が通じるだろうか。意思が通るだろうか。

 そんな疑問を持つ暇もなく、その霊体は……馬車の中へ。


「ユキナリっ!!」


 狙いがユキナリなのかと、高速で戻るライネ。

 バンッ――と扉を叩き壊し、【アロンダイト】を構えた……が。


「……な、何が……」


 その霊体はユキナリのかたわらに寄り添うように座り、愛おしい相手に微笑ほほえみを送るように、その口を開いた。


「……うふふ。こんなにも真っすぐで、なのに進むことが出来ずに足踏みをする。不器用なのですね……」


「仲間から離れなさい!」


 切っ先を向けて叫ぶライネ。

 しかし。


「ご安心を。彼に危害を加えようとしている訳ではありません……ただ、こうも報われないのは可哀想で」


「何を言って」


 半透明ながら、その女性はライネにも理解できる程に……脅威だった。

 漂う空気感が、その余裕が。言葉が、笑顔が。


「彼は私たちの夢と希望。その時のために眠っているのでしょう……いつか報われると、夢が叶うと信じて」


「あなた……いったい何なの?私たちの敵じゃ、ないの??」


 微笑ほほえみを見せる女性の霊は、ライネに視線を送り。


「――私は精霊。【希望の精霊】……ホープ。そしてこの方は、私ホープと契約をするご主人様……の予定のお方」


「精霊って、そんな」


 ライネも、ミオたちがエルフの里【フェンディルフォート】に滞在していた時のことを共有している。だから知識だけはある。しかし、信じるに値するかと疑問を抱く。


「彼の希望を憑代よりしろに、私は彼と並び立ちましょう。その時まで……彼と共に」


「それってまさか……まっ!!待ちなさ――あっ」


 段々と薄れ、消えていく精霊ホープ。

 しかしライネには、その光景がユキナリの身体へと融け込んでいるように見え。

 眠る胸元に吸い込まれるように、その存在は消えていった。


「……殿下に、どう報告すれば……」


 まるで影響などないように、ユキナリは眠り続ける。

 それと同時に、外の騒がしさも収まってきたが。


「少尉!!外へ来て下さい!」


 その緊迫した要求に、ライネは混乱しながらも行動をする。

 そして、外へ出たライネが見た光景は。


「……な、なによ……これはぁ〜〜〜!」


 馬車の外は、無数の人で溢れていた。

 帝国の軍人以外ので……だ。


 武装解除した装備に、精霊たちがそれを憑代よりしろにして具現化したのだ。彼ら彼女らは武器防具へと変身し、契約者とともに戦う精霊だ。

 後の世で【武装精霊】と呼ばれる存在、そして【希望の精霊】は……遠い世界の魔王の中で眠る……深く、深く。永く眠るのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る