リバースストーリー2−13【公国内乱短期決戦6】



◇公国内乱短期決戦6◇


 父の恥をこれ以上見せない為に、ここは報告とさせて頂きたい。

 執務室へ突入すると、父クライブ・レダ・コルセスカは真っ先に剣を向けた。

 震える手、怯えた表情、痩せ細った身体……けた頬、光のない瞳。


 そして口にするのは「売国奴」。

 息子と娘を見るその目は……現状を理解もしていないような、そんな間抜けな顔だった。


 戦いにもならない。

 刀で剣を弾き、情けなくも腰を抜かす父親に、僕は切っ先を向けて言った。


「終わりです、クライブ・レダ・コルセスカ。【女神ウィンスタリア】様への反逆の罪で……拘束します!」


「父上、観念を」


 少し悲しそうに、姉上がばくを取る。

 しかし父は、無様にも逃げようとした。


「――観念するのだ、クライブ。もうこれ以上の恥をさらすな」


 ウィンスタリア様の、いましめとも情けとも取れる言葉に、父は激情を見せる。本当に、なんて愚かなのか。

 僕は【天叢雲剣あめのむらくものつるぎ】を鞘にしまい、そのまま父の足にかけた。

 転び、顔を打つ。そして女神の足元にすがいやしき男。


「どこまでもっ!」


「ルー、斬る価値はない。止めておくのだ……」


 ウィンスタリア様は悲しそうに、自分の子孫を見下ろす。

 そして、神の力を下したのだ。





「――お疲れだったな、ルーファウス」


「いえ。これで……今回の公国内乱の報告は以上です」


 【アルテア】に戻り、ミオ君の自室で報告をした。

 ミオ君は真剣に、けれども重くならないようにジョークを交えて受け答えをしてくれた。本当に、人を思いやれる人だと思った。


「そか。でもこれで、公国はもう争わなくて済む……んだよな?」


「そうですね……」


 神妙に、僕は考える。

 ウィンスタリア様によって下された、父の刑。

 さらされたそれは、【フィドゥンパーウ】に住む公国の民が見ただろう。


 しかし。


「父には、外部からの協力者がいたようです。これはこちらとしても少々意外でしたが、それでも再び戦いを起こすには……時間がかかるかと」


「外部って、公国の南って事だろ?……って事は」


 その通りですよミオ君。

 最東端を公国に、北に女王国、西に帝国としている。

 つまり、協力者は南……そこは海です。


「はい。協力者は【ラウ大陸】……魔族です」


「やっぱかぁ」


 厄介なのはミオ君も分かっているんだ。

 魔族は対価を求める種族。全てがそうではないが、転生者以外の魔族はそうだと考えた方がいい。


「父は、公国の物資を横流ししていました。配下の貴族たちの多くも、賛同していたと」


 民が飢えるのも構わずに、おのが為だけに。


「マジか、腐ってんな……あ、悪い」


「いえ、事実ですし。ウィンスタリア様が怒るのはそこなんです」


「あー、そういう事か」


 女神は、その国に崇拝される存在である。

 そして崇拝は、民がいなければ発生しない。

 その民をないがしろにし、死に至らせる元凶を作ったんだ。

 これが他の女神様だったとしても、怒りを見せるだろう。


「ミオ君のおかげで食料には困りませんでしたが、それでも申し訳がなくて……」


 部下たちには見せないが、これは弱音だ。

 ミオ君だから見せられる、僕の弱み。


「そんな事くらいなら、幾らでも【豊穣ほうじょう】で育てるよ。勿論、農家が作って育てるのが一番だけどさ、飢餓きがが訪れるよりはマシだし。公国は協力者なんだし、【アルテア】の一部と言っても過言ではないだろ?」


「……いいん、ですか?」


 僕はズルい。

 ミオ君がそうやって言ってくれると知っているからだ。

 だけど、願いを叶えてくれる存在は……もう君しかいないんだ。


「当たり前だろ。俺は、公国が敵になるよりも……ルーファウス、お前が敵になる方がヤバイと思ってるんだからな」


 ミオ君はそう言うと「へへっ」と笑い、ポケットから何かを取り出す。

 それは、何かの種だ。


「えと、それは……?」


「これはな、スイカっていう野菜の種だ。果物と思われるが野菜だ。そしてこれは、死んだと思われていた生き残り。【ステラダ】の地面の下から帰還したのさっ」


 う〜ん、よく分からないけど。

 それが、公国となにか関係が?


「それがどうかしたんですか?」


「これを、公国の土地で育てよう。育て方とかは、丁度もうすぐ夏だからな。その時に教えるから、農家になる人材は任せるよ」


「いいんですか?でも、そのスイカという野菜で……」


 それだけで飢餓きがが防げるとは思えないけど。

 しかしミオ君は、その種を握りしめて。


「これを元手にするのさ。夏までに育てて、売って売って売りまくる!まぁまぁな値段で売れるし、しかも美味いぞ?繊維と水分だし、女性人気もある。それにレジャーでも使えるしな」


「はぁ……でもミオ君が言うなら、お願いしたいです」


「ふっふっふっ。ああ、任せろ!試したい能力もあるからなっ!!」


「?」


 そんな感じで、戦後処理は淡々と進む。

 ミオ君がもたらしてくれた野菜や果実のおかげで、公国は飢えることなく未来へ進める。そうして……歴史には記載されない、小さく短い内乱は、こうして終りを迎えたのだった。

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