リバースストーリー2−12【公国内乱短期決戦5】



◇公国内乱短期決戦5◇


 公国首都【フィドゥンパーウ】。

 三大国家の中で一番の狭い領土を持つ公国は、エルフの国を吸収してこの大きさだ。首都はその中央から少し東。【アルテア】からは休み無しで進んでも、四日の時間を要する。


「戦闘準備だけは出来ているようですね……」


「だね〜、流石は臆病風のコルセスカ公爵……我が父ながら、情けない」


 僕たち遠征軍は、目の前にする【フィドゥンパーウ】の防衛ラインを前にして口にする。実の父親の愚かさを。


「部下たちに守らせて、自分は居城に立て籠もり。かつてはウィンスタリア様にも一目を置かれていたはずの彼が、こうも落ちたか」


 もう勝利は揺るがないだろう。

 公爵は、最大の配下であったバルディッシュ子爵を切った時点で、負けが確定したようなものだ。しかも、そのバルディッシュ子爵はこちらに付いたのだから。


「――ウィンスタリア様、号令を願います」


「うむ!」


 これが内乱の締め。

 実に呆気なく終わる。歴史にも残らない、身内のさびを落とす戦いの終幕だ。


「……皆のもの!よく聞くがいいっ!」


 前に出て台に乗るウィンスタリア様。

 その姿は、幼い子供が背伸びをするために台に乗り、親の手伝いをする光景に似ている気がした。直接言うと怒るから、心の中で言っておきます。


「長くはない歴史の【テスラアルモニア公国】が、腐敗によって脅かされて早数年……ウチが選んだ後継者であり、ウチの直接の子孫だ……そこは申し訳がないと同時に、無念もある」


 ウィンスタリア様は、女神様となった当時は既婚者だったらしい。

 この見た目で?と思うでしょうが、天使となった時点で老いなくなっていたと言っていました。


「それはウチ……いや、私の責任だ!その責は、今日必ず、この場所で払ってみせよう!救世の神ウィンスタリアの名に賭けて!!だから、私の愛する【テスラアルモニア公国】の民よ、兵よ!今一度私に力を――!!」


 掲げる手には、神力で作られた旗が。

 その宣言と共に、快晴の空へ。


 遠征軍の士気は高い。

 誰もが思っていた、クライブ・レダ・コルセスカには重責だと。

 だから僕が乗せられた、担がれた。しかしそんな事は些細なことだ。

 何故なら僕も姉上も――そう思っていたから。


「さぁ、皆さん!僕たちが本当の公国の意思だと、今日ここに示しましょう!!そうすれば、公国は永遠の繁栄と崇高なる女神様の加護、そして……三国国境の地で待つ最高の友人たちを得ることが出来る!それは僕たちだけじゃない、未来の自分の大切な存在や、子供に孫、更に遥かな先への宝になるだろう!!……その為に、勝つぞぉぉぉぉぉ!!」


「「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉお!!」」」」」」


 声が響く。これは相手への威嚇にもなる。

 戦力差は確かにあるが、攻め手になった以上気にする事はない。

 臆病者の父の事だ、タルドルのように籠もって最後まで出てこないだろう。

 そうなれば、勝ちは確実……兵糧も心許こころもとないはずだし、なにより兵の士気が段違いだ。

 敵には「投降すれば命は奪わない」と触れを出している。


 時間もかからないはずだ。

 僕たちの……【アルテア】の勝利は揺るがない。




 そして、戦闘が開始された。

 重騎兵を中心に、閉じられた門を攻める。

 父はこの城が堅牢だとでも思っているのだろうか……素材も古く、手入れもされていない木製の門を。


「――五分で落として下さい」


「「「はい!ルー様!!」」」


 その返事通り、【ルーガーディアン】は四分で城門を開いた。

 守備隊は案の定撤退。城の中に。


「ルー様、ご報告が」


「手短に」


 【ルーガーディアン】の一人である獣人、セルネラ・ブラックデオが膝を折る。


「はっ。では……城下の民ですが、全て我々遠征軍の指示に従うとのことです」


 猫耳をピコピコと動かしながら、セルネラは淡々と報告をする。


「そして公爵の様子ですが……どうやら公は、町からありったけの食料を接収して行ったそうです」


 なんて愚かな行為を。

 民の命を奪う行為を、こうも簡単に行うとは。


「……では、我々の備蓄を分け与えましょう」


「はい。既にピュリムが」


 流石ですね。僕がこうすると、よく理解している。


「ならばよし。では……僕も出陣しますっ。セルネラはここで指揮系統の補佐を」


 【天叢雲剣あめのむらくものつるぎ】を持ち、既に出撃している姉上やソフィに続く。


「――はいっ!」


 僕が参戦することで、父が動くかもしれない。

 あくまで……しれない、だが。


 そんな僕の予想は、当然のようにハズレる。

 父は案の定立て籠もりを続け、降伏や戦意喪失する兵たちを尻目に、一人執務室に残り続けたらしい。全く……本当に学ばない人だ。




「――鍵は」


「壊されているね〜。扉には魔法が掛けられてて、普通の武器じゃ傷一つ付かないよ。はぁ〜〜」


 姉上がため息混じりに言う。

 そういう魔法は昔から得意だったな。しかし意味はない。


「僕が斬ります」


 シャラン……と【天叢雲剣あめのむらくものつるぎ】、刀を抜く。

 リィィィン――と、不思議な音が鞘から発生する。


 暴れる……久し振り過ぎて、刀が怒っているんだ。


「――二の太刀【虎砲こほう】」


 上段からの斬り下ろし。

 ただそれだけの単純な一撃。しかし、【虎砲こほう】は魔法を粉砕する。

 魔法の構造を壊し、無効化する技だ。


 パリィッン!


「……さぁ、対面の時です。姉上!」


「りょーかい!はぁぁぁ!」


 姉上が槍を振るう。

 今までの鬱憤うっぷんを晴らすように、思い切り扉を破壊した。


 煙が舞い、警戒をするが。

 中から聞こえてきたのは……「ひぃっ!!」という情けない声。

 僕と姉上は顔を見合わせ、ため息を吐いた。


「行きましょう姉上。流石に僕もこれ以上、父親の恥の上塗りを見たくはない」


「……だねぇ。ガードの皆、外の警戒よろしくね」


「「「はっ!!」」」


 僕と姉上は執務室へ。

 たったの三日間……そんな短い内乱は、歴史にも残らない戦いは、こうして終戦するのだった。

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