リバースストーリー2−11【公国内乱短期決戦4】



◇公国内乱短期決戦4◇


 バルディッシュ子爵の行動は、隠された孫……ハルバート家の爵位を若くして継いだ、ユン・ハルバートの保護が目的だ。

 彼とその両親が生きているのなら、子爵にとって自分の命などどうでも良かった。

 そして、自分の配下と領民が無事だったのなら、コルセスカ公爵を裏切ったところで意味をなさないからだ。


「……そういう事ですか」


 たった今、子爵から事情を聞いた。

 今回の不可解な投降は、やはり偽装。

 この場所を簡単に明け渡すことで、首都【フィドゥンパーウ】へと僕たちをわざと進めさせ、その隙に【アルテア】を攻める。

 つまり子爵は、捨て駒にされたのだ。


「息子と孫には、手を出させないとコルセスカ公に確約させた。部下と領民は【女神ウィンスタリア】様が許しをくれた……ならばもう、吾輩わがはいには」


「……残念ですが、奇襲は上手くいきませんよ」


「何故だ、コルセスカ公は完璧だと……息子は守りに長けているから、攻め込んできた今が最良だと」


 やはり、そんな事だと思った。

 僕さえいなければ、【アルテア】を落とせると踏んだ父の愚かさと来たら。


「あの場には、僕よりも強い人たちが無数にいるんですよ……それこそ、他の女神様に恩恵おんけいを受けた、能力者たちがね」


 だからこそ、防衛から攻撃へと移る事が出来るのだ。

 浅はかな知識だけで、部下を切り捨てる……本当に無能ですね、父上。


「で、では吾輩わがはいは……」


「捨て駒。更には無駄死をするところだったんですよ」


「そんな……」


 子爵がその真実に気力を失うと。

 部屋に入ってくる二人……ウィンスタリア様と姉上だ。


「お前の配下の処遇は決定したぞ〜。ルーに従うのならば、家族も見逃すし処罰も与えない。精々、今回の指揮官であるお前の罰金で済まそうかな〜って。な、レイナ」


「……はい、そうですね」


 姉上?お疲れ……みたいですね。


「処遇も決まりましたし、いよいよ子爵が命を断つ理由がなくなりましたね。さて、どうしますか?」


「寛大なご配慮、痛み入る……我がバルディッシュ家は、ルーファウス殿に従おう。コルセスカ公の情報も提供させていただく……それで、どうか」


 それでいい。充分過ぎる戦果だ。

 こちらは被害ゼロ、相手も罰金だけ。

 更には御敵の情報と戦力も手に入った……言うことなしでしょう。


「ソフィレット。それでいいですね?」


「……はい、ルー様の御心のままに」


 【アルテア】で生活をしていれば、きっとユン・ハルバートにも会えるはず。

 それさえ出来れば、ソフィも子爵を斬る理由はない。

 ハルバート家の失墜の原因はそもそも、ユン・ハルバートの父である前公爵の失態だ。そこは弁明も聞かないし、息子に非があると言われるのも道理。

 ならば、小さな漁村であろうがそこで生きるのも良いでしょう。


「では、明日にはここを発ちます。姉上はウィンスタリア様の護衛を、ソフィとピュリムは、他のガードに通達。ですが一人、伝令として【アルテア】へ向かわせますので、選別は任せます」


「はい、ルー様!」

「了解ですっ」


 さてと、今日はここまでです。

 移動は残り二日。そうすれば……父上、コルセスカ公爵を追い詰められる。

 公国を愚鈍へと陥れた、前時代からの戦犯。

 エルフの国を滅ぼし奪い、その奪った国すら、愚かにも滅びの道へと導こうとしている。


 その息子である僕が、僕たちが変えなければ。

 【女神ウィンスタリア】様が見切り、息子の僕へ託した子孫としての……役目だ。




 そして翌日も順調に道を進め、首都【フィドゥンパーウ】は目前に。

 前日に【ルーガーディアン】から一人を【アルテア】へ伝令として送ったのですが、以外にも直ぐに連絡が返ってきた。それも直接、飛んで。


「すみませんクラウさん、わざわざ来ていただいて。それにガードまで連れてきてもらったようで」


 キャンプ地点の天幕へ案内をし、彼女は……


「いいのよ軽かったし。それに私も、公国の土地を見てみたかったしね、暇だし?」


 飲み物を煽りながら、笑顔を見せるクラウ・スクルーズさん。

 初っ端「最近、出番が無い気がするのよね」と言っていたが、どういう意味だろう。


「それで、【アルテア】の方は」


「平気よ。帝国の軍人たちが防いでくれたわ……心配は無用、公国領は一歩も踏み込まれていないし、死者も出てない」


「……そうですか」


 ミオ君らしいな。

 死者も出さずに戦いを終わらせる。それは戦の理想だろう。

 だけど、僕たちこの世界の住人からすれば、それは甘さと言われかねない。


「それにしても、言っちゃ何だけどさ……」


「はい?遠慮なさらずどうぞ」


 クラウさんは言いにくそうに、しかし言わねばならない要件のように。

 何を言われるのか……いや、これは確定だろう。


「――今回のキミたちの敵。公国を先導する主導者……コルセスカ公爵は、正直言って私たち転生者の敵じゃないわ。悪いけど、これはミオも同意見。セリスフィアもね」


「……はい」


 でしょうね。だけど、僕たちは僕たちで真剣だ。

 【女神ウィンスタリア】の意思があれど、結局は転生者ではないんだから。


「でも、それはキミたちがこちらの味方だからよ」


「え」


 なんだか意外だった。

 評価されているのは、自惚うぬぼれにもなるが感じていた。

 それでも、そうして口にされると。


「ミオも、絶対の自信を持っているから旅行なんて出来るのよ。【アルテア】の守備は完璧、自分がいなくても余裕で守れるって」


「あはは……僕、この前からかっちゃいましたよ」


「それはいいのよ、本当は私も思いっ切りからかいたい所だけど……まぁミーティアが可愛そうだしね」


 指で頬を掻きながら、クラウさんは笑う。

 あの二人、旅行で進展したんだろうな……前より仲がよく見えるから。


「ま、そんな所よ。よいしょっ……と。それじゃあ私は、少し公国の風景でも見てから帰るわ」


「え、手伝ってくれるんじゃ?」


 始めからクラウさんたちは戦力に含んでいないが、わざと聞いてみた。

 すると彼女は……振り向きざまに。


「……必要ないでしょ、私もキミの勝ちを信じてるわ。それじゃね」


 軽くウインクをして、クラウさんは天使の翼を広げて飛び立つ。

 あっちは南。もしかして、始めから。

 南の漁村に行くのだろう。食えない人だ。


「それじゃあ、僕たちも真剣に……最速でっ」


 明日、父と対面することになるだろう。

 公国を腐敗させる病原菌……クライブ・レド・コルセスカ。

 彼を討伐して、僕たちは本当の意味で【アルテア】の一員になるんだ。

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