リバースストーリー2−9【公国内乱短期決戦2】



◇公国内乱短期決戦2◇


 翌日、僕たち公国の遠征軍は出立した。

 荷馬車十五台(食料)、騎兵二百、歩兵五百、精鋭(【ルーガーディアン】)二十名。そしてウィンスタリア様と僕、姉上の……総勢、七百二十三名。

 それがこの、公国遠征軍だ。


「荷は慎重にですよ!ルー様の食料なんですから!」


 そんな勢いで捲し立てるのは、ソフィレット・ディルタソ。

 【ルーガーディアン】の一人です。


「ソフィ、食べるのは全員ですよ……贔屓ひいきしてはいけません」


「ですがピュリム!ルー様には沢山食べて、大きくなっていただかないと!!」


「――はぁ?ルー様は小さいからいいのでしょう。その意見は看過できませんね」


 う〜ん。僕の話はいいのに。

 二人は胸を張り合って、視線から火花が出るほど睨み合っていた。


「ルー様。ルー様はどちらがいいとお思いですか?」


「……え、僕?」


 まさか本人に直接聞いてくるとは。

 しかし、僕は大きくなりたいんだけど。


「はい、ルー様はやはり、今のままがい良いかと」

「いやいや!ムキムキマッチョになりたいですよね!?」


「えぇ……」


 流石にそこまでは。

 それに、結構なトレーニングを重ねている自負もありますが、精々成長してもミオ君みたいな、細くても筋肉質が最善かと思うけど。


「可愛く!!」

「マッチョに!!」


「……普通でいいですよ」


 その普通が分からないけど。


「――おいルー、遊んでない指揮を執るのだ。お前たちも、自分の欲望を主に押し付けるでないぞ」


「「ウィンスタリア様!」」


 やる気のない顔でやって来た救世の女神。

 久々の太陽に、気が滅入っているようだ。


 ソフィとピュリムは敬礼をする。

 ビシッと、今までの緩んだ顔が嘘のようだ。


「ウィンスタリア様、随分とゆっくり来ましたね……」


 僕がそう言うと、ウィンスタリア様の背後に居た姉上……レイナが言う。

 それはもう疲れを隠さず、ゲッソリした顔で。


「最後まで駄々をこねるんだもの、子供かっての……はぁ〜」


「お疲れ様です、レイナ様」

「ご苦労さまです、お嬢様っ」


 ソフィとピュリムも姉上をねぎらってくれる。

 駄々をこねたか……そうか、また。


「ウィンスタリア様、今回の遠征で……父を打倒すると言い出したのは、ウィンスタリア様ですよね」


「むっ。う、うむ、そうだったかぁ?ウチ、忘れてしまったぞ……あははっ」


 とぼける幼女神。

 そうなのだ。このお方は、言ったことを直ぐに忘れる。

 しかし今回の場合は、とぼけていると確信を持てた。


「そうですか。では帰りましょう……その代わり、【アルテア】での立場は下位に落ちるとお思いくださいね?」


「――な!!何故なのだっ!?」


 当たり前でしょう。

 勇んで出陣したのに、たったの二日で帰還したら情けなさすぎる。

 奇襲やトラブルがあった訳でもなく、女神のおとぼけで帰還などしたら、それこそ他の女神様に笑われる。


「……当たり前じゃないですかぁ。他の女神様がいる場所で言ってるんですから、ねぇルー」


 姉上がげんなりして言う。

 僕も同意だ。


「ええ、そうです。だから帰ることは許されませんよ……ウィンスタリア様のメンツを守るためにも、ね」


 僕は真剣な顔で、東を向く。

 そこは、公国の商業をまとめる町……【ヒッタル】と呼ばれる町。

 僕たちの目的地、首都【フィドゥンパーウ】へ向かうための中継点であり、父の部下が守護しているだろう……第一戦闘地点だ。


「はぁ……仕方ないのだな。ルーたちはウチに救いを求めないし、ウチがいても邪魔だと思うんだけどなぁ」


「「そういう問題ではありません」」

「「その通りです」」


 僕と姉上に否定され。

 ソフィとピュリムに納得される。

 このお方は本当に女神様なのだろうかと、疑問が出てきそうな対応だが。


 ウィンスタリア様はすぅーーーーっと息を吐くと。

 覚悟を決めたような顔をして……パンパン!と頬を叩き。


「――それでは行くぞ。確か……コルザ・バルディッシュだったな。くらいは子爵」


「はい、仰る通りです」


 やる気さえ出てしまえば、ウィンスタリア様はしっかりと仕事をしてくれる。

 やる気になるまで長大な時間が掛かるだけで、そちらに傾いてしまったらこっちのものだ。


「出陣するぞ、門を……」


 ギィィィィィィィ……バァァァン!


「「「……」」」


「開きましたね」


「……ちっ……」


 ウィンスタリア様が舌打ちした。

 だが、これは少し驚いた。

 まさか、バルディッシュ子爵がウィンスタリア様のやる気を削いでくるとは。


「ん?いやいや、ルー様ちょっと見て下さいよ、アレ」


「……うわぁ、マジじゃん」


 ピュリムの言葉に姉上が引き気味に。

 僕もそれを確認する。開いた門から出てきた複数の兵士……その掲げる旗を。


「し、白旗……ですね」


「ウチのやる気返せよ、マジで」


 ウィンスタリア様は既にオフモード。

 分かってしまったのだろう。こうなると。


「戦わずして降参とは、流石に父の部下か……」


 ただし悪い意味でだ。


「ウィンスタリア様、もっかいやる気出してくれませんかぁ?」


「……無理。向こう十年は嫌だぞ」


 姉上の単願もむなしく、ねてしまった。

 さて、どうしよう。戦わずにして勝利はまぁいい。手間が省けるから。

 だけど、兵の指揮にも影響はある……今日は皆、戦意欲に満ちていた。

 それが途切れないか、実に心配だ……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る