リバースストーリー2−8【公国内乱短期決戦1】



◇公国内乱短期決戦1◇


 ミオとミーティアが内緒の小旅行から帰ると、塔の村は【アルテア】と名乗ることが決まっていた。女神たちが独断で決めた、“世界を治療する村”……という意味らしい。


 そして今、この現場は塔の内部だ。


「――それで、そっちの方はどうなんだよルーファウス」


「はい。順調ですよ、ミオくんが居ない間に一度攻め込まれましたが、軽く撃退しています」


「その時の捕虜に、父……コルセスカ公爵の部下が居たんだよね〜、現在、拷問中かな〜」


 コルセルカの姉弟がそう言うと、ミオは心配そうに。


「拷問かぁ」


「いえご安心を。手荒な真似はしていませんよ……それに、意外と口も軽そうですし」


「あはは、だねぇ」


 コルセスカ公爵は二人の実の父親だ。

 その部下ならば、知り合いなのは間違いない。


「――失礼します」


 会議室に、メイド服姿のハーフエルフ。

 キルネイリア・ヴィタールが紅茶を持ってきてくれたようだ。


「それならいいさ、公国領の事は任せてるしな。サンキュ、イリア」


「いえ、会議がんばってくださいね」


 カチャリとティーカップが置かれる。

 ミオは気付く。この香りは、【カレントール】からのお土産だ。


「お任せ下さいミオくん。ミオくんがミーティアさんと二人きりで何処かへ行ってても、絶対にこの【アルテア】を守ってみせますから!」


 ミオは口端を引きつらせて。


「なぁルーファウス、お前……この前から結構イジるよなぁ」


「あはは、だってあれから随分と仲がよろしそうで、噂されていますよ?何かあったんだって、良い意味で」


「――そ、そうなんですかぁ!?」


 イリアが反応する。

 若干のショックを受けてそうだった。


「べ、別に普通だよ。ってイリアもなんでそんな驚くんだ……」


「……すみません、つい」


「あっはは!まぁ帰ってきたその日に、クラウちゃんがミーティアちゃんを見て『歩き方が違う……』って言ってたしねぇ〜」


「なんすかそれ……」


 どうやらクラウは、ミーティアの些細な挙動で察したらしい。

 ミオは心の中で「……無理させたかも」と反省しているが、それは顔に出さない。


「分かるものなんだってさ〜」


 しかも【アルテア】内で周知だ。

 どことなくぎこちなかった二人が、あからさまに距離感が近付いている。

 人目を気にせず、肩を寄せ頭を撫で寄り添うのだから、気付かぬ方も気付かぬ方だろう。


「怖えなチビ姉……」

(転生者的に、なんか言われるかと思ったけど……特にないな。認めてくれてる、のかな?)


「そうかも知れませんね……いえそれよりも、次回の遠征の件を話しましょう」


 ルーファウスは切り替えよろしく本題に戻る。

 ミオはズルリと肩を滑らせて。


「お前が振ったんだろうが。まぁいいけどさ……で、遠征は――」


 そうして本題。

 ルーファウスを始めとした公国遠征軍が正式に決定する。

 目的地は、公国の首都【フィドゥンパーウ】。

 コルセスカ公爵が逃げたと言われる、要衝だ。




「……では、【ルーガーディアン】を数名残して、僕たちは出陣したいと思いますが」


「ああ、こっちの守備は任せてくれていい。万が一だしな、この状況で攻め込んでは来ないと思えない」


「ええ、それはそうなのですが……スパタ伯爵の例もありますので」


 ミオは「あ〜」と苦笑い。

 控えめに例えても、彼は無能だった。

 娘のネイル・スパタが良識であり、勝敗を見極める才があったから、伯爵は島流しで済んだ。


「【アルテア】の公国領土はさ、まだ正直言って手薄じゃない?防衛は得意だけど、ルー……攻め手はどうするの?まさか、無闇に突っ込むとかは言わないでしょ〜?」


「姉上……僕がそんな無策で行動をするわけないでしょう」


 ジト目で呆れられる。

 ルーファウスの姉レイナも、それは当然理解している。

 しかし言わねばならないのだ。姉として。


 コルセスカ姉弟にミオは。


「まぁまぁ、コルセスカ公爵は首都で背水のつもりなんだろうが、こちらから言わせてもらえば天王山でもなんでもないからな」


「てんのうざん……?」


 日本の例えだ。

 運命の分かれ道など、それに例えられる言葉。


「あー悪い。えと……決定打になるような戦いとは、俺たちは思ってないってことだよ」


 それはルーファウスたちを信頼しているからこそ言える言葉であり、別段この戦いを落としたとしても、こちらは何度でも再起が可能という理由もある。


「油断だけは出来ないよ。公爵はしたたか……人を使う、おだてる事だけは上手なんだから。人選はともかくね〜」


 結果、それが全てとも言える。


「はい、気を付けます。ミオくんもどうか」


「ああ。油断はしないさ……公国組が戻ってくるまで、きっちりと【アルテア】は守るよ。それが俺の責任だしな」


 この【アルテア】に残るミオには、笑って送り出す事しか出来ない。

 勝利を信じ、共に【アルテア】を築いていく仲間たちを待つことだけが、責任者としての今回の仕事だ。


「よ〜っしぃ……それじゃあルー、皆に伝えに行くよ〜。勿論、今回はウィンスタリア様も連れてくからね〜!」


「ですね。こちらへ来てからというもの、ウィンスタリア様は出不精になっていますから……ここらで頑張っていただきましょうか」


「……い、意外と鬼だな。二人共」


「あははっ」

「ふふふっ」


 目が笑っていない二人に、ミオは引き気味に言うが。

 それでも、その余裕を持った態度を見る限りは安心だと確信したのだった。

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