リバースストーリー2−5【些細な二人きりの旅5】



◇些細な二人きりの旅5◇


 ミーティアが、シャワーを浴びながらカミュ先輩から話を聞いてくれた。

 カミュ・テレジアドールという二年生の冒険者学生は、徴兵ちょうへい時にこの【カレントール】に滞在していた。依頼でだ。


 しかし、あの徴兵ちょうへいが起こった。

 サポートで連れていた一年生は連れて行かれ、町の人も沢山連れて行かれたそうだ。だが、カミュ先輩は……そこで【超越ちょうえつ】をした。


 彼女は超人、人間族の上位種だ。

 因みに俺は天族の上位種、天上人だ。クラウ姉さんもな。

 後は、【帝国精鋭部隊・カルマ】のロイド・セプティネさんと、クラウ姉さんの相棒であるラクサーヌ・コンラッドさんが魔族の上位種、魔人だ。

 ラクサーヌさんは、今回【ステラダ】でスカウトに成功、春先には塔の村に合流予定だ。


「……そして、【超越ちょうえつ】した君にこの町は頼み事をしてきた。守って欲しいと」


「……はい」


 だが無償だ。

 俺たちが滞在するこの宿や近くの店などは、関わりのない人たちだが、町長や【ギルド】の人間は、無責任にも逃げ出しているらしい。

 今の責任者は、あの盗賊シーフ風の細男だとさ……世も末だよ。


「よし、ならやっぱりカミュ先輩は俺たちのところに来てもらおう」


「そうね、それがいいと思う」


「……ぇ?」


 こんな所に居ていい子じゃない。

 才能の無駄遣いとはよくいうが、異世界で言えばまさにこんな状況だ。

 俺たちよりも随分年下だけど、それでも超越者ちょうえつしゃであり実力も折り紙付き。ちょっと無口と言うか、感情を出すのは苦手そうだけど。


「【ステラダ】の南に、新しい村があるんだ。三国の国境で、様々な人たちが集まった自由な場所だよ(予定)」


「ええ、【ステラダ】にいた人たちも合流予定だし、冒険者学生も大勢いるわ。カミュ先輩の知り合いも、きっと」


「……行きたい、ですけど」


 シュンとする十四歳。

 優しい子だ……この町を気にしているんだろう。

 この【カレントール】を守ってきたからこそ、思えるんだ。

 だけど、町の人はカミュ先輩をいいように使うだけ。


「なら考える必要はないよ。【カレントール】が自衛できれば良いんだからな」


「……ぇ、でも」


 そんな事。そう思っているんだろう。

 まぁ仮にも俺たちは後輩だし、自分の実力も理解してるから言えるんだな。


「大丈夫ですよ、カミュ先輩……ミオは、きっとカミュ先輩を自由にしてくれます。そうすれば、別に私たちと来なくたって、好きな場所に行けますから」


 笑顔でそう言う。

 選択肢を与える言葉だな。

 恩に感じたら俺たちに着いてくる可能性が高い、それは自由を蔑ろにする行為だし、俺もミーティアと同じく思う。


「そうさ、今の御時世って言うか……まぁ冒険者学校も閉鎖されたままだし、【ステラダ】に戻っても意味はないかもだけど、家族とか友達とかさ、行きたい場所はあるだろ?」


「……それは、はい」


 ならこのままここにいては駄目だ。

 カミュ先輩が有能だと女王国の誰かが気付けば、狙われる可能性も充分ある。

 実際に、【カレントール】が襲われている回数は【ステラダ】の数倍らしいからな。


「なら決まりな。俺はカミュ先輩、いやカミュをこの場所から開放する、そうしたら君は自由の身……やりたいことをやろうぜ?その為に冒険者学校に通ってたんだろ?」


「……ぁ……あ、はい!」


 何かを思い出したように、笑顔をみせてくれるカミュ。

 きっとそれを思い出す暇もなく、【カレントール】を守っていたんだ。


「それじゃあミオ」


「ああ、二人はここにいてくれ。後は……俺が全部やる」


「……ぇ」


 ニッと笑い、俺は行動を開始する。

 善は急げ。夜のうちに全てを解決し、そして旅行の再開だ……あと一日しかないけどさ。




 ミーティアとカミュを部屋に待たせ、俺は【転移てんい】で外に。

 【極光きょっこう】の足場を使い、夜空から町全体を見下ろす。


「課題は防壁か……【ステラダ】よりも平地であるこの場所だと、低い壁があっても意味はない。いっそ、ドーム型にしちまうか?」


 そして一箇所からしか侵入できなくする。

 しかしそうすると。


『明度問題が発生します。魔道電柱は、【ステラダ】でも高級品ですから……それに、冒険者などが撤退しているので魔力を持った人材が少ない可能性もあります』


「魔道電柱か……村でも途中で断念しなきゃ行けなかったんだよな。本体は届いてたのに、設置前に聖女の奴に襲われたから」


 ならば、あの石はどうだろう。

 確か【明光石めいこうせき】。魔力を注げば一生光るとかいう大量に存在する石だ。

 ミーティアがエルフの里【フェンディルフォート】の地下に行った時に、沢山あったと話してくれていた。


「ちょっと行ってみるか。【転移てんい】」


 シュン――と、エルフの里【フェンディルフォート】の上空へ。

 既にエルフ族は撤退して塔の村に全てが滞在している。

 だからすっからかん、建造物まで片付けられていた……用意周到だな、ニイフ陛下。


「ここだよな?」


『はい。この地下に、座標はウィズが設定しますので、安心して【転移てんい】を』


「おう」


 再度【転移てんい】。

 地下に到着だ。


「うわ、明るいな……豊穣の村の地下よりも、圧倒的に眩しいぞ」


 でもこれなら、ドーム型の天井に埋め込んでも明るいはずだ。

 日が当たらなくなるが、そこは女王国の問題が解決したら日に当たってもらうとして。


「【明光石めいこうせき】、触れても平気なんだよな」


『はい。過剰な魔力を注がなければ』


 よし、それなら早いところ回収して戻ろう。


 そうして、俺は公国の地下から大量の【明光石めいこうせき】を回収して【カレントール】に戻る。

 あとは簡単、【無限むげん】と【創作そうさく】でドームを作り、そこにこの石を埋め込めば終了だ。

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