リバースストーリー2−4【些細な二人きりの旅4】



◇些細な二人きりの旅4◇


 翌日、小旅行二日目。

 俺とミーティアは早朝から、【ギルド】のある【カレントール】北部へ向かった。


 しかし。


「あれ、カミュ先輩いないのか?」


「昨日は確か、明日は予定がないって言ってたのに」


 【ギルド】はもぬけの殻。

 昨日の荷台がポツンと寂しくたたずみ、荷物もない。

 本来は職員や冒険者で溢れるはずのロビーにも、閑古鳥かんこどりよろしく虚しさが目立っていた。


 そんな寂しい【ギルド】の扉が開く。

 カミュ先輩が戻って来たのかと、俺とミーティアは振り向くが。


「――おん?なんだアンタら、冒険者か??」


「いや、俺たちは観光客です」


「はい、ここに滞在している女の子に会いに来たのですが……」


 入ってきたのは、盗賊シーフ風の細身の男。

 年齢は三十代半ば、整えられていない無精髭が目立つ。


「あぁん?あのガキにぃ?」


 カミュを示唆する言葉に、あからさまに嫌悪感を出す男。

 確定だ。【ギルド】もこの町も、カミュ先輩を歓迎はしていない。


「……そうですけど、彼女は――」


「あーあー!もういい、話なんざ聞く必要すらねぇぜ、あのバケモンはあの奇妙で、死なない騎士を殺しに行ったしなぁ」


 あんな小さな子を、バケモンだと?

 それに、今日は予定がないって言ってたのに。

 聞く限り、町からの依頼で不死の兵士たちを倒しに行ったんだと……予測できる。


「アンタは盗賊シーフだよな。こんな場所でなにを?まさか火事場泥棒か?」


「けっ、盗むもんなんざとっくにねぇよ。そもそも徴兵ちょうへいのときに粗方持ってかれたしな」


 荷台をゴソゴソと。

 その荷物は、カミュ先輩のだろ。


 俺の視線に気付いた男は。


「ああ?こいつは俺等の依頼品だ、食事だってまともに出来やしねぇんだぞ。あのガキは一人でも戦えるし、喋りゃしねぇしで不気味だ。言う事だけは聞くからな、雑用でもなんでもするのさ」


 雑用も、戦いまで。

 こんな場所で一人、孤独に。


「分かった……ならその荷物は、俺が買い取る」


「ミオ!?」

(腹立たしいのは分かるけど!でもそれは……)


 俺の隣で、小声でそう言うミーティア。

 大丈夫だから。俺は冷静さ。


「買い取るだぁ〜あ?おいおい、この量の品がどれほどの――」


 ドサッ……ジャリン……


「あ?」


「そんだけあればいいだろ。拾えよ」


 投げたのは麻袋。

 金貨や銀貨が入った、結構な金額だ。


「へ、へへっ……」


 ジャラジャラと、俺の視線を気にしながらも麻袋を拾う男。


「それを受け取ったらさっさとここから去れ。そしてカミュ・テレジアドールにもう関わるな」


「ミオ……」


「い、言われるまでもねぇ……こんだけありゃ、遊んで暮らせる!感謝するぜあんちゃん!そ、それじゃあな!!」


 もう返さないからなと言いたそうに、麻袋を抱えて【ギルド】を出ていく男。

 ミーティアはそんな後ろ姿を軽蔑の目で見送り、そして俺に。


「いいの?」


「いいのさ。手付金的なもんだし、カミュ先輩っていう物凄い逸材をスカウトする金だと思えば、安いもんだし」


「……もう、仕方のない人なんだから」


 呆れつつも賛同してくれる、それがミーティアだ。

 俺に腕を組んで、肩に頭を預ける。

 あれ……昨日もこんな雰囲気だったのに。


「……しないの?」


「――え!!」


 パッと見てみると、これぞまさにキス待ち。

 目を閉じて待機するミーティア。かわっっっっっ!!

 だけど、昨日のことが引っ掛かる……


「で、でも昨日は……」


「あ、あれはその、き、着替えしてなかったし。汗も流してないのに……出来ないよ」


 かぁぁぁぁ……と赤くなるミーティア。

 青い髪の毛をイジイジして、照れまくっている。


「……」

(あーヤバイ……鼻血でそう。可愛過ぎるティア、今直ぐにでも……)


 俺はミーティアの頬に手を当て、顔を上に向ける。

 そして、ちゅっ……と。キスだけ・・


「さ、流石にここではさ」


 ありがとう理性!!

 もう少しで、初体験は廃墟と化した【ギルド】でした!


「う、うん。だよね〜……あはは」


 二人で照れまくっていると、カチャリと扉が開いた。


「……あれ、ミオさんにミーティアさん」


「お、おお、カミュ先……ぱい!?」


「な!なんでそんな血塗れぇぇぇぇ!?」


 戻って来たカミュ先輩は、返り血でびしょ濡れだった。

 この【ギルド】にはもう、お湯が出る設備もない。

 仕方ないよな……そうさ、仕方ないんだ。




 カミュ先輩を連れて宿に戻り、ミーティアが彼女をシャワーへ。


「……なんでなん?」


 俺はベッドに腰を掛け、頭を抱えていた。

 二人だけの小旅行、しかし捨て置け無い事情が出来て、【カレントール】をどうにかしないとと思った。それはいい、将来の為ならば、投資は辞さないさ。

 しかしだ、俺はこの旅行でミーティアとだなぁ……


「期限はあと、一日か。それまでに、この【カレントール】の現状を改善しないと。カミュ先輩を拉致……じゃなくてスカウトするとしても、流石に町一つをこの戦火で放置する訳にはいかないよな」


 どう思う、ウィズ。


『――【カレントール】の防衛は、今までカミュ・テレジアドールが一人で行ってきたという形で完成しています。【ギルド】が解散しているのがいい例でしょう……この町は、カミュ・テレジアドールに全責任を押し付けるつもりでしょう』


 成功すればそれでよし、もし失敗したら……子供のせい、か。


「胸糞だな。絶対にカミュ先輩を連れ帰ってやる」


 将来有望な冒険者の卵。

 しかも無口系幼女ときた……これはデカい。

 クラウ姉さん、幼女枠のライバルだよ。


 「だれが幼女か!!」とツッコミが聞こえてきそうだが、それよりも先にミーティアとカミュ先輩がシャワールームから帰還だ。

 ミーティアが話を聞いた、はずだ。

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