リバースストーリー2−3【些細な二人きりの旅3】



◇些細な二人きりの旅3◇


 荷物を置く。

 ここは宿の一室、二人の部屋だ。


「それにしても、驚いたわね」


「だな。まさか冒険者学校の先輩だったとは」


 門で会った少女は、学校時代の先輩だった。

 しかも最年少で入学し、【カレントール】を死守していた才能溢れる人材。


「カミュ・テレジアドール……だっけ」


「ええ。滅多に【ステラダ】に戻ってこないから会ったことはなかったけど、とても有名な先輩ね」


 俺も噂は聞いてた。

 でもまさか、あんな普通(サイズ)の女の子だとは。

 それはもうてっきり、オーガもビックリの巨女かと想像していた。


「ま、その先輩さんのおかげで【カレントール】にも入れたし、いいんだけどさ」


 ベッドに腰掛ける。

 にしてもだ。あの子……数時間前まで離れた町にいたんだよな?

 俺たちは馬車で移動してきたけど、あの子は??

 まさか徒歩?走ってきた?……いやいや、それでも夜まで掛かる計算だ。


「ミオ!こっち来て!ほら見てっ!!」


 おっと大興奮のミーティアさん。


「どした?」


 嬉しそうにするミーティアの横から、ひょこっとその部屋へ視線を移す。

 するとそこは、シャワールームである。


「見てこれ、温度と勢いを調整できるんですって!す、凄くない!?」


「アー……ウン、スゴイネ」


 当たり前だなんて、言えないです。

 【ステラダ】では、魔法の道具でお湯は出せても、温度調節や勢いまでは操作できなかったもんな。風呂はあるのに。


「これ、販売できないかしら」


 商人出てますよ。

 それくらいなら、俺がチョチョイっと【無限むげん】でやるから。

 あと、新能力の【創作クリエイト】で作れるよ。


「なぁ、それはいいからさ、町に出てみないか?」


「……う、うん……でもほら!ここっ」


 急な切り替え。視線も俺とシャワーを行ったり来たり。

 あ。これはまさか、恥ずかしさを誤魔化す為の?


『強引に連れ出すことを推奨』


 俺もそう思う。

 だからミーティアの手を取り。


「――行こうぜっ!観光の始まりだ!!」


「きゃっ!も、もう……ふふふっ」




 宿から外に出る。

 腕を組んで、歩き始めたが。


「案外、人いないな」


「そうね。でも……外で戦いが起きている雰囲気ではないわね。普通の平凡な日って感じかしら」


「だな。休日ならもっと増えそうだ」


 確かに人混みは少ないが、それでも普通に買い物客や住人たちが闊歩かっぽしている。

 中には警備隊と思われる、武装した兵士もいるし、冒険者……あ。


「……ぁ」


「「あっ!」」


 消え入りそうな「ぁ」と発したのは、先程会ったばかりのカミュ・テレジアドール。大量の紙袋を荷台に乗せて、一人で買い物をしていたようだ。


「えっと、カミュ・テレジアドール……先輩?」


「カミュ先輩……先程は手形の発行、ありがとうございました。おかげで【カレントール】に入れました」


 ミーティアが頭を下げる。

 カミュ・テレジアドールは小さく「……ぃぇ」と。

 声小っさ!!


「先輩はなにを?」


「……買い出し、です」


 その量を、一人で??

 荷台には大量の紙袋。軽く見積もっても、一週間分はある。

 確か、【カレントール】にも【ギルド】があって、そこで世話になってる……んだよな?


「その、手伝いましょうか?」


 おっとミーティアさん?


「……いいん、ですか?」


 ミーティアは俺を見る。

 困った人は助けたいと……そんな視線。

 そりゃあ、断らないよ。


「勿論。【ギルド】までかな?」


「……はい」


 う〜ん、聞こえない。

 とにかく、この荷台を引けば。


「――って!!おんもっっっ!!」


「ミオ……?」


 いやいや、そんな非力な者を見る目をしないでくれ!

 こんな小さな子が引いてたのに?って顔しないで!!


「カミュ先輩……この荷台、よく引けますね」


 控えめじゃない。

 【丈夫ますらお】で強化されてる俺でも、体感で重いと感じるレベル。

 それをこの子は、軽々と引いていたのか。


「……ぇ、重い……ですか?」


 えぇぇぇぇっ!?

 そんな、馬鹿な……


 結局、荷台はカミュ先輩が引いた。




「ふぅ……初日は、なんにも出来なかったな」


「ふふふっ、そうね」


 夕方、近くの食事処で夕食を済ませて宿に戻る。

 【ギルド】を訪れると、そこには誰も居なかった。

 もう、この【カレントール】では経営を断念していたらしいんだ……つまり、カミュ・テレジアドールはたった一人で、この町を防衛してきた。そういう事だ。


「……」


「……」


 考えるのは、これでいいのかと思う所。

 あんな小さな子が一人で町を守っているという事実は、少なくとも沢山の協力者を得て村を起こした俺に、考えさせた。

 このままでいいはずがない。それは、多分……ミーティアも。


「ねぇミオ……明日、カミュ先輩の所に行ってみない?」


「うん、そうだな」


 やっぱり、この娘は俺の考えを理解してくれている。

 ならもう、やるべき事はたった一つだけだ。


「――決まりだな。この【カレントール】の守備を万全にして、カミュ先輩を……塔の村に連れて行く」


「うん。そうしましょう……彼女も、きっとここにいるよりはいいはずだもの」


 そうだ。大人が誰も手を貸さず、あんの小さな子が町一つを守るだなんて。

 そんな無責任を許しちゃいけないんだ。


「そ、その前に……」


「え?」


 暗がりの部屋。

 男女二人きり……そう、良い雰囲気。


「――ティ」


「あ!!私、忘れ物しちゃった!」


「……え」


 し、失敗……だと??

 え?あれ?結構な雰囲気じゃなかったか?

 それともなにか?俺、避けられた?


 トテトテと、ミーティアはシャワールームへ行ってしまった。

 まさか、シャワーを浴びてから……なんて事は?


 いや、よそう。

 これだから童貞は……がっついてんじゃねぇよ、精神年齢はオッサンだぞ。

 ミーティアが成人したからって、焦って事をなそうとすんな……嫌われるぞ、馬鹿が。

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